C-brand

 

 


 

 

 



 

 

 

【 ご 注 意 】

*「美 女 と 野 獣」 パロディです。が、結局、原作童話は関係ありません。

非常に残酷な拷問表現、ストーリーがあります。

*「ザックスが」性的暴行を受けた事実が出てきます。(私自身、本当に苦手なのですが…すみません)

*亀更新。

 

 

 

さあ、殺してしまいなさい。

 

――あなたが幸せになるために。

 

 

Story13.集団妄想

 

 

黒い封筒が、家に届いた。

 

それはソルジャーである自分が戦争犯罪人として有罪の判決を受けたこと――を意味している。

これから行われるであろう尋問も聴取も、そして裁判も意味などない。茶番だ。

その封筒には、ただ一言<須らく教会に出頭すべし。>とあるのみ。

今、自分の喉仏に鋭利な刃が突きたてられているような、そんな錯覚に思わず首筋をさする。

もうすぐ、それは錯覚などではなく現実となってこの身に突き刺さるだろう。

 

年老いた両親には、息子の戸籍を自分たちのそれから除籍するようにと連絡してある。

こちらも、両親や親族とのつながりを証拠つけるようなものは全て抹消してある。

ソルジャーの仲間や部下たちはすでにミッドガルの外へと逃げているし、お付き合いしていた女性や友人達

とも全て縁を切った。

 

(だから、大丈夫だ。)

 

ザックスは入隊以来、初めて袖を通す軍の正装を身に着けて、教会へと向かった。

――死刑台に、立つために。

 

 

 

 

 


 

 

世界を掌握する随一の巨大軍事企業「神羅カンパニー」が衰退の兆しを見せたのは、

4次魔晄戦争の渦中だった。当時の社長が暗殺され、後継者である息子自らが他国に

遠征へ赴いているとき、首都部でレジスタンスが活発化し、中核である摩天楼がテロにあったのだ。

その爆破テロによって、富裕層・貧困層問わず、軍人・一般人問わず何万人という尊い命が失われた。

件のレジスタンスは「ツヴィエート」とその組織を名乗り、軍幹部であった元ソルジャーが指揮をしていて、

そのテロ行為はソルジャーの暴走ではないかと指摘された。それが正か否かはわからない。

 

しかし確実にそこに根を張った、ミッドガルの住民の抱く「反神羅」の意識――

神羅カンパニーはその内側から、壊れていく音を聞いたのである。

 

同じ頃、各地で蔓延していた疫病、飢饉、治安の悪化。

その不安の中で行われた『魔女狩り』にのせて、いつしか世界は『ソルジャー狩り』を叫ぶようになる。

 

青い瞳の男を殺せ、奴らは悪魔だ。

 

それが魔女を恐れた信仰深い村人を主軸に行われたのか、反神羅派の軍人・政治家たちによって

行われた政略のか、第三勢力である教会が舵をとるべく図ったことなのか、真実はわからない。

真実がどこにあるのかわからずとも、ただひとつわかることがある。

 

『ソルジャーさえいなければ』 そう、誰かが言った。誰もが思った。

 

『ソルジャーさえいなければ病気が治る』

『ソルジャーさえいなければ食物が育つ』

『ソルジャーさえいなければ、世界は太平の世を取り戻す――』

 

ソルジャーは人非ざる者、ひとの命を脅かす兵器、世界の膿。それを取り除いてこそ、未来はある。

そう人々は信じていた。

大きな変化を望むには、いつだって大きな犠牲が必要で、それは後の世では「革命」と呼ばれるものだ。

それは尊ぶべき自浄行為なのか、つまらない責任転嫁に過ぎないのか。革命なのか殺戮なのか。

――おそらくは後者であったとしても、それがなければ人々は生きていけなかった。そういう時代だったのだ。

 

 

 

 

 

『ソルジャー狩り』が発令されたとき、友人たちは皆口をそろえて、ザックスに逃げろと言った。

実際、逃げ出したソルジャーは大勢いる。

中には小隊を結成して、今もなお武器を手に持ち抵抗している者もいるが、おそらく教会勢力に

制圧されるのは時間の問題と思われた。神羅側も「ツヴィエート」がソルジャーの暴走であることを認め、

ソルジャー制圧に対しやぶさかでない姿勢をとったからだ。

――神羅はソルジャーを斬り捨て、世界に赦しを乞う自身の免罪符としたのである。

 

捕らわれたソルジャーに待っているのは、<死ぬことの叶わない拷問>――である。

 

肉体改造を施されたソルジャーがそう簡単には死なないというのは、衆知の事実。

殴られ、縛られ、刺され、燃やされて、永遠と続くような拷問を受けても、死ぬことは叶わない。

終わりがくるのは、心が悲鳴を上げたとき…もう生きていたくないと精神が崩壊したとき、

ソルジャーの化け物じみた防衛能力が低下しようやく死に至る。

…ソルジャーの末路とは、そういうものだ。

 

ザックスは、逃げなかった。

たとえこの黒い封筒が届かずとも、自分の罪を知っている。

ザックス自身がその手で数えきれない命を奪ってきたし、敵兵を拷問したこともある。

皮肉にも戦時下の拷問・体罰によって得られた人間の臨床データは、結果ミッドガルにおける

医療進歩の急速な発達を促すことにもなった。

「ソルジャーが捕虜の命ひとつ奪うことで、市民の命がひとつ救われる。」

それが正義であると自負するソルジャーは多く存在したが、ザックスはそうは思わない。

 

――人殺し、だ。それ以上でもそれ以下でもなく。

 

たとえ医療の進歩に貢献しようとも、後の悔恨の根を絶えさせるためであっても、

今、自分に向けられた銃口を避けるためであっても。人が人の命を奪っていい理由にはならない。

 

だから、これは因果応報だ。そう思った。

狂うほどの苦痛、その責め苦を受けねばならないほどの罪を犯した自覚はあったし、

もし逃げようものならば、世界は代替えを必要とする。ザックスの代わりに死刑台に立つ「身代わり」だ。

それが家族かもしれないし、部下や友人かもしれないし、お付き合いした女性かもしれないのだ。

 

「おいレノ、そんな恐い顔すんなって。…まあ、なんとかなるだろ。」

「なるわけねえだろうが!いいから俺らとこい!ミッドガルから逃げるんだぞ!」

最後までザックスに逃亡するべく説得を続けたのは、友人のレノだった。

彼は捕らわれるべきソルジャーではない、にも関わらずザックスを助けようと協力を自ら願い出ていた。

それは罪人に荷担する行為になり、下手をすれば自身も追われかねないというのに。

 

「大丈夫だぞ、と!」

「おい、俺の真似すんな。笑えねえ冗談はやめろ、何が大丈夫なんだ。お前わかってんのか?

ソルジャー狩りで捕まった奴らは繰り返しひでえ拷問を受けて、最後には…!」

「…最後には、ちゃんと死ねるだろ?」

「え?」

「ソルジャーだって人間なんだ。ちょっと体が頑丈なだけで、化け物じゃねえ。

――大丈夫、ちゃんと死んでみせるよ。」

レノはそれ以上、ザックスを説得することは出来なかった。

ザックスが恐れているのは死ではない、罪を背負って生きながらえること。…そう、理解したから。

 

「…お前なんか、さっさと死んじまった方がいいかもしれないぞ、と。」

「あ、それはちょっと酷くね?」

レノは冗談めかして笑った。たぶん、強引に笑ってみせたのだろう。

お前みたいに優しい男は、こんな世界で生きられないだろう――そう言って。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

でも、死ねなかった。

 

 

 

 

 

獄中で来る日も来る日も拷問を受け、やせ細り、身体中が血にまみれても、ザックスは死ねなかった。

もしかすると頭や胴体を切断されれば死ねたのかも知れないが、教会の連中はそうはしない。

彼らはソルジャーの身体データをとっていて、その拷問は「ソルジャーがどれだけの苦痛に耐えられるのか」

という人体実験の一貫だった。

軍事研究や兵器開発、それに医学技術の貢献のため――ここにも、偏った正義はあったのだ。

 

投獄されて二月が経ったころ、だっただろうか。

拷問を受けたソルジャーはみな数週間で心が折れ、痛みに泣きわめき、狂いだしたのに対し、

ザックスは依然正気を保っていた。いっそ狂ってしまいたかったのに、自分が思っていた以上に強い

精神力のせいか、それとももとより死への恐怖がないという意味で狂っていたからなのか――

変化を見せない男に、決して恐怖に屈することのない男に、看守たちは忌々しいと嫌悪した。

 

看守の一人が、鎖で縛られたザックスの顎を靴先で持ち上げる。

「おまえ、いちおう色男だったんだろ?今じゃ見る影もねえなぁ。きったねえ、」

「俺が女だったら、下の毛もねえ男なんてお断りだね。」

「ぎゃはは!違いねえ!」

 

…看守のくだらない暇つぶし。

拷問は、ソルジャーの臨床データをとる施術の他にも、もっと低俗で吐き気のする行為があった。

いわゆる、人間のお楽しみ≠ニいえるものだ。

髪を歪に刈り取られ、陰毛を剃られ、歯を抜かれ、舌を切られ――そんな身体的な苦痛だけじゃない。

人間の尊厳を踏みにじるような、そんな恥辱…

女とセックスを強要されたり、女のように暴行されることだって。

 

「ソルジャーってのはさぁ、マジで化け物だよな。あんだけいたぶられても、痛いとも言わねえんだから。」

「不感症なんじゃねえの?ケツに突っ込まれても、うんともすんとも言わねえじゃんこいつ、」

 

何が楽しいのだろう。

ゲラゲラと笑うその下品な声が、聞こえなければどんなにいいか。

最近栄養失調のせいか、視覚がおぼつかなくなってきた。いっそ、聴覚も失ってしまえばいいのに。

 

 

 

 

人間って、こんな生き物だっただろうか?

 

 

 

 

ザックスの父親は痩身の男で、物静かで穏やかな性格だったけれど、その実なかなか頑固なところがあった。

たしか、ザックスが13歳の時。

河原の岩肌で足を切った息子を背負って、半日以上かけて山の中を歩き続け、

隣村の診療所に連れていってくれたことがある。

その頃にはすでにザックスの背丈は父親を超えていたし、彼は還暦をとうに過ぎていたもので皆が止めた。

気の強い妻が説き伏せようとしても、この時ばかりは尻にしかれることもなく男の意地を通した。

…その後一か月は腰を痛めてまともに動けなかったけれど。

思えば、怪我をした猫や鳥をすぐ連れて帰ってきては、妻に叱られている…そんなお人好しな人だった。

 

ザックスの母親は気が強くおせっかいな性格で、いつも喋るか笑うか怒るか、とにかく賑やかな人だった。

料理がどうあっても苦手で、いつも器用な夫に食事を作らせているくせに、

子供の弁当だけは何故か自分で作りたがった。

幼い頃はその不格好な弁当を、友達に見られるのが恥ずかしくて。ザックスはいつも隠して食べていた。

いつの時だったか、親子喧嘩をしたときに「母ちゃんの弁当はかっこ悪い」とついでのように文句を言った。

次の日から、弁当のウインナーはタコの形になっていた。たったそれだけだったのに、

ザックスはものすごい罪悪感に襲われて、学校から帰宅して開口一番に「ごめん!」と母に叫んだ。

――すると彼女は恥ずかしげもなく、愛おしそうに息子を抱きしめるのだ。

切り傷だらけのその指に、もう一度ごめんと言ったのを覚えている。

 

 

 

 

人間って、そういう生き物ではなかったか?

 

 

 

 

「ほら、食えよ。うまそうだろ?」

グロテスクな生肉を目の前に放り投げられる。

この血の臭い、脂の臭い、それに、男たちの狂った歪な笑み――

直感でそれが「なんなのか」男たちの企みを理解してしまった。

 

「腹へってんだろ?これ食えば楽になれるんだぞ。」

不自然なほど優しい声色で、看守の男が言う。でもその表情は、酷く悪意に満ちている。

食べてはいけない。これを食べれば、もう人間ではいられなくなる。

――化け物≠ノなってしまうから。

 

「食えって言ってんだろ!なんだてめえ、なんでいつも口つけねえんだよ!化け物のくせに!」

肉の塊を口内に押し付けられ、しかし飲み込むことはせず、吐き出した。

舌はないけれど、その臭いで血の味だとわかる。

臓器からこみあげるような吐き気を感じて何度もえづくけれど、水すら摂っていないのだから

吐き出すものなど何もない。唾液さえ出ないのだから。

 

 

 

「こいつ、食ったぜ。はは、てめえはやっぱり人食いだ!」

「おまえわかってる?今おまえが食ったのは、人間のそれなんだぜ。」

 

つい先日の裁判で、同じようなことをすでに言われている。

「ソルジャーは人食いである、よって死刑」だと。

判決のあとに罪を作るだなんて、順序が逆だ。どっちが先だって、もうどうだっていいことだけれど。

「死刑」なのだから、早く殺してほしい。

首を切り落としてさえくれれば、きっと死ねるから。早く――

 

「おまえのそういう、すましたツラが本当むかつくわ。」

「他のやつらは俺たちの靴でもケツでもなんでも舐めて、ご機嫌とりしてくれんぞ?」

「もうあいつら、正気じゃねえもんあ。」

 

「――なあ、ソルジャー・ザックス。」

 

男の口角が歪にあがっていくのがわかる。

「これを見てもまだ、正気でいられるか?」

こんな醜い笑みを、これまで見たことがない。

父親の笑顔は春風が吹くように、母親の笑顔は朝日が射すように。

レノだって、お付き合いしてきた恋人だって、たとえ花街で誘いをかけてきた女性だって、

笑った顔は悪くなかった。大小はあれど、相手を慈しむ気持ちが、きっと僅かでも存在していたはずだから。

 

 

 

 

「おまえ、今食ったのって、誰の肉だと思う。」

 

 

 

 

まるで、スローモーションのようだった。

ザックスの低下しているはずの視力が捕らえてしまう。

目の前に散らばる、何枚もの写真を。そうそれは、写真、写真、写真―――…

そのときザックスの中で、全ての音が止まった。

これほど衰弱した体であっても、たしかに鼓動を刻んでいた心臓の音が聞こえない。

呼吸の音も聞こえない。ひとが持つはずの「心」の声が聞こえない。

 

…故郷を出るとき、二人はなんて言っただろう。

「いつでも帰ってきなさい」と父親は寂しそうに笑った。

「二度と帰ってこなくていい」と母親は怒ったように泣いた。

どっちだよと頭をかけば、「どっちでもいいんだよ」と父が母の肩を抱いて言った。

おまえが元気ならば、戻ってこなくてもいい。大丈夫、会いたくなったらおまえに会いに行くから。

自由に生きなさい――

父と握手をして、母に抱きしめられて、後ろ髪をひかれるように巣立ちをして。

 

ソルジャーになって、可愛い恋人を作って、親孝行できるぐらいの金を手に入れて、

そうしたら会いに行こうと思っていた。

もう二人とも若くないんだから、あと何回そう呼べるかわからないんだから。

父さん、母さん、そう呼べるかわからないから。

 

 

 

 

 

 

 

もう、呼べない。

 

 

 

 

 

 

それから先は、覚えていない。

目の前には、恐怖の表情のまま息をしなくなった看守や聖職者たちが転がっている。

鎖を引きちぎって、無我夢中で殺し続けた――ような気がする。

死ぬ間際の男の口で、「化け物」そう呼ばれたような気がする。「それがどうした」そう返した気がする。

 

(ソルジャーは、ひとに非ず。そうだな…)

 

死ぬこともできない。人を殺すのをためらうこともない。化け物かもしれない。

でも、それで良かった。人間であることに未練などない。こんな、ただの肉の塊を人間と呼ぶならば、

 

「……本当、人間って。どうしようもねえ生き物………」

――化け物、そう呼ばれた方がどれだけいいか。

 

視界が、涙で滲んでいく。

血の海の中に沈んだ写真、そこに映っているのはザックスの父と母――であったもの。

首と胴体を切断されたそれは…愛しいひとのあまりに無惨な亡き骸≠セった。

 

 

 

 

 

その日、ザックスの中で「ひと」が死に、本物の化け物が生まれたのだ。

 

 

 

 

 

 


 

 

「……大丈夫か、クラウド。」

「……っ、ざっく、」

大丈夫、と答えることはできなかった。ザックスから語られた過去が、あまりに衝撃的で。

「ごめん。大丈夫なわけないよな。こんな、酷い話して…」

ザックスが謝ることではない。

クラウドが聞きたいと望んだから、彼は辛い過去の紐をといて話してくれているのだから。

 

長い夜だった。

 

ザックスの部屋、大きなベッドの上で。

少しの距離をとったまま、二人向かい合って話をしていた。

取り留めないことから、順番もなく、ただ思い出をなぞるように語られていくザックスの過去。

どんなことだって、聞き逃したくはなかった。だから、クラウドはほとんど何も話さなかった。

ただ、ゆっくりと、相槌を続けた。ザックスを受け止める意味で、何度も、何度も。

彼はその相槌に安心するように、時折迷いながらも沢山のことを話してくれた。

 

ザックスの生まれた故郷が、ずっと南の方に位置するゴンガガという小さな田舎村であること。

遅く生まれた長男一人っ子で、両親には厳しく、優しく、育てられたこと。

父親に頭を撫でられ、母親にはぶたれたり抱きしめられたりしながら、そうやって愛されたこと。

14歳の時に、村を出たこと。そして、幼い頃からの夢であったソルジャーになったこと。

 

けれど戦争が勢いを増せば、人を殺めるばかりの軍属に、誇りを持てなくなっていったこと。

恋人を作ったり、レノを初めとする友人と酒を飲んだり、ときには薬に頼って…

そうして心のバランスをとっていたこと。

 

戦争で。小さい子供を、殺してしまったこと。

その頃から、いつか世の中からの報復はくるのだろうと、予想も覚悟もしていたこと。

――ソルジャー狩りが、行われたこと。

 

 

 

 

「…あのとき、子どもを殺していなかったら。いつもそう、考えてた。」

小さい子どもを、その手にかけてしまった事実。

きっとこの人のことだ、自分の心臓に刃を貫かれる方がどんなにいいかと、そう思ってきたのだろう。

「殺していなかったら、まだ、人間でいられた気がするんだ。俺、おかしいよな。

俺があの子を殺していなくても、ソルジャー狩りは行われてたし、父さんも母さんも…死んでたし、

結局こうやって、独りで隠れて生きてんのかもしれないけど。」

独りで$カきているというザックスの言葉に、息がつまりそうだ。

 

 

 

「でも、あの子を殺したこと。俺は絶対――絶対、自分を許せない。」

 

 

 

誰かが最初に、彼を責めたのだと思っていた。

誰かが最初に彼を「化け物」と呼んだから、だから彼は「化け物」としてしか生きざるをえなかったのだと。

でも――それより前に、たぶん、彼は自分で自分を責め続けたのだ。

苦痛も、死でさえも、容易に受け入れるぐらいに。

「クラウドは、」

闇に怯える、子供のような声だった。

 

「…クラウドは、俺を許せる?」

 

許されたいと、ザックスは言っていたけれど。それはやはり違うと思った。

「俺は、ザックスを許す側の人間≠ノはなりたくない。…ただ、ザックスの味方でいたい。だから、」

 

――化け物になりたい。

 

だから、彼を人として許すことは出来ないけれど、それでも彼を抱きしめることは出来ると。

暗闇の中、彼に手を伸ばすのに、彼は抱き寄せてはくれない。

こんな闇の中では、彼が口を閉じてしまえば、そこにいるかどうかもクラウドにはわからないのに。

 

「クラウドは、化け物にはなれないよ。オマエは、俺とは違う。」

しばらくの沈黙の後、彼は言った。

「…違くない。」

「違うよ。見た目もそうだけど、オマエはやっぱり化け物じゃない。人間だ。」

「なんで…そんなこというの?俺じゃ、駄目なの?」

 

まるで、「オマエはしょせん人間だ」と見切りをつけたような言い方だ。

ザックスと同じになりたいだけなのに。

人間でいればそれが叶わないというならば、いっそ化け物にでもなんにでもなって、

そうしてともに生きていきたいのに。

「――クラウドは、」

柔らかく、温かい、こんな風に名を呼ばれるのは初めてではない。

いつだってザックスは、愛おしくてたまらないという風に、クラウドを呼ぶ。

 

 

 

 

「父さんみたいに、優しい。母さんみたいに、泣き虫だ。…クラウドは、俺にとってそういうひと。」

 

 

 

 

いろんなものが胸の中で混ざり合って、息が、うまく出来なかった。

嬉しいのか、悲しいのか、切ないのか、可愛そうなのか、愛おしいのか――きっと、全部。

 

 

 

 

 

 

愛しい、俺の野獣――

 

朝日が昇るのを 恐がらないで。

貴方の顔を見て、俺が伝えるのはひとつだけ。

 

風のように優しく太陽のように温かい

貴方こそ、そんな人だって。

 

 

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2013.09.16

酷過ぎる話ですみません…すみません…

 

 

 

 


 

 

 

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