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【 ご 注 意 】

*「美 女 と 野 獣」 パロディです。とかいって、原作童話どこいった。

*ザックスが、最初ちょっと?かなり?鬼畜気味です。

*のんびり、亀更新。

 

 

野獣はその邪悪な力で、人を死に至らしめました。

それを崇りと呼んだか、呪いと呼んだか―…

 

Story3.野獣のこころ

 

 

部屋の中は、とにかく寒い。

もう少し暖のとれる場所はないのかと、城中を歩き回るけれども、どこも一様だ。

せめて雨戸が開いていたなら、昼の間は日光が射し込んで、多少は温かいかもしれないが…

主の意思でそれは固く禁じられている。

 

明かりをつけることが許されるのは、クラウドのものとして宛がわれた小さなランプのみ。

それを片手に、この暗い城内を移動する。

僅かな明かりであるから当然視野は狭く、城内の配置がいまいち理解し辛い。

壊れて開かない扉はいくつもあるが、それを抜かしても城内の部屋は数えるのが馬鹿馬鹿しいほどだ。

そうはいっても、ほとんどの部屋は使われていないのだろう。どこも埃の臭いがする。

 

使われているのは、食堂と思われる部屋(縦に長いテーブルが置かれている)と、書斎、

そして奥の『青い扉の部屋』のみ。

この青い扉の部屋は、男の部屋だと言っていた。

その扉の隙間からは、微かに光が漏れている。

(…なんだよ。自分は、明かりつけてるくせに。)

人には禁じておいて、自分は明かりをつけて過ごしている。

もしかすると、男の部屋には暖炉だってあるかもしれない。

普通の人間であれば、こんな寒い環境下で、暖もなくまともに生活していけるわけがない。

そう思うと、なんだか納得がいかないというか、腹がたってくるというものだ。

ふ、っと手の中のランプが消えた。

 

 

 

「俺の部屋に何の用だ。」

 

青い扉の前に突っ立っていると、すぐ後ろから低い声が聞こえてきて思わず肩を揺らす。

てっきり、部屋の中にいると思っていたのに。

男の声からは不機嫌さが窺えて、殴られるだろうかとまた身を固くした。

「……別に、殴ったりしねえよ。」

そう言われても、これほどの暗闇であれば、またどこから拳が飛んでくるかわからない。

実際、この男に酷く殴られて、しかも階段から投げ飛ばされたのだから。

 

「部屋にいないから、逃げ出したかと思ったけど。俺を殺しにきたのか?」

警戒をとかないクラウドに諦めたのか、男は小さくため息をついた。

「……城の中、自由に使えって。アンタが言ったんだろ。だから探検してたんだよ、何が悪い。」

「探検?ガキか。…こんな城、なんも面白いことなんかねえよ。」

それより、と男が続けた。

 

「そのかっこで、よくウロウロできるな。食ってくださいって言ってるようなもんだぜ。」

クラウドの格好、つまりは素肌に毛布を頭からかぶった状態。

それを揶揄されて、思わずむきになる。

「誰のせいだと思ってんだ。着るものはないし、おまけに暖炉もないし!あそこにいたら凍え死ぬ!」

そう口にした後で、もしやそれが男の狙いだったのかと思い当たる。

あの部屋でクラウドを衰弱させ、死に至らしめるつもりなのかと。

 

「…ああ、なるほど。」

男の冷酷な仕打ちに身を凍えさせるが、男の返事はクラウドの想像したものではなかった。

「人間からすれば、寒いのか。なるほど…」

「人間からすればって…」

まるで、自分はそうでないと言うかのように。

 

 

 

キラリ、と男の手の中が光る。

何が起きたのかと、また暗くなった闇の中で思案していると。

体を包んでいた毛布がないことに気付く。代わりに何かが体を覆っている。

これは、もしかしなくても…男の魔法で。

「……これ、服?」

「オマエの着ていたやつは、俺が破いちまったからな。」

 

「…魔法って、そんなこともできるのか?」

「無から作り出せるわけじゃない。毛布の化学構造を作り変えただけ…

俗にいう、錬金学と魔法学の応用だ。」

男の言葉は、それは妖しの術ではなく、あくまで科学による力であると暗に意味している。

これまで出逢ってきたどんな者よりも、男は聡明で知恵のある人間のようで。

 

「毛布、後で何枚か増やしておく。足りなければまた言え。」

「……どうも。」

クラウドのそっけないけれど『礼』の意味の返事に、男は小さく笑った。ような気がした。

「探検、もいいけど。迷子になるなよ。」

「子供扱いすんな!俺は16だ!」

ニブルヘイムでは、男子は15歳で成人とされているし、

実際クラウドとて、家計を支える一家の大黒柱だったのだ。ひどく貧しい暮らしではあったけれど。

 

「へえ、16?見えねえな。…俺とほとんど変わんないじゃん。」

「―――え?」

数百年もの間、城を巣食っている野獣。そうではなかったのか?

 

 

 

「アンタは、いったい…」

 

 

 

何者なのか、と。

その問いかけに返事はなく、代わりにクラウドの手にしていたランプが再び灯る。

辺りを見回すが、もうどこにも、男の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 


 

男の言葉どおり、城は広いだけで何もない。

ただ、歴史ある石造りの建築様式。それに風化して傷んだアンティークや骨董品。

数百年…かどうかはわからずとも、もうずっと前からこの城は存在していたと、それらが証明している。

 

その中でもクラウドが興味を持ったのは、大きな書斎だった。

書斎は城の主の趣味か、医療や薬学、魔法学の本が多く置いてある。

かといえば、歴史書や地誌もあるし、他にも料理本や恋愛小説などといったものまで

集められているのだから、そのジャンルは節操がないほどに幅広い。

地元の地誌しか保管されていないニブル村の図書館よりも、ここには多くの蔵書がある。

本を読む以外にすることもないし、もともと司書を職業としているクラウドにとって、

その山ほどある本の数には、純粋に魅力を感じる。

クラウドは一日のうちほとんどを、そこで過ごすようになった。

 

 

 

 

「また、ここにいるのか。」

 

この城にやってきて10日ばかりが経つが、ほぼ毎日、ここで読書をしている。

男はそれに文句をいうでもない。

むしろ一日に12回書斎に立ち寄っては、黙ってそこに居座るようになった。

もの言わぬ男の前で、クラウドもただ黙して本を読む。

最初こそ気が散ったし、男の気配が恐ろしくもあったが…

相手に他意はないのだとわかってからは、さして気にならないようになった。

 

クラウドのランプも、小さく灯ったまま――

 

一度男が書斎に入ってきたとき、ランプを消され。

それにクラウドが激昂してからは、男は読書の時だけは灯を消さないようになった。

クラウドが読書の邪魔をされるのを、どれだけ嫌がるか理解したのだろう。

 

 

 

 

ペラリ。

本をめくる音だけが、部屋に響く。

男も、どうやら何か本を読んでいるようだ。

 

(眼、悪くならないのか…)

クラウドのランプは灯ったままだが、書斎は広いため、男の座る場所までは光が届かない。

むろん、意図的に明かりを避けて座っているのだろうが。

…この暗がりで、よく文字が読めるものだ。

 

「…何、読んでんの?」

本を読むときのクラウドに、男は基本話しかけてこないが、

クラウドの関心が一瞬本から逸れたことを目敏く感じたらしい。

「……魔法医療の可能性、Dr.ヨハン・ドーマク著。」

「うわ、面白そー。」

さもつまらないものを読んでいると嫌味を言われたようで、クラウドもムキになる。

 

「なんだよ、アンタが集めた本だろ。自分も読んだくせに。」

「他にすることもなかったからな。そんなん、ただの退屈凌ぎだ。」

だったら、どうしてこの男はこの城にいるのだろう。

外の世界には出ないのだろうか。…出たくないのだろうか?

そう疑問に思えども、それを聞くことはできない。

 

なんとなく、わかるのだ。

それを聞いても男は答えてはくれない。

――男が酷く傷つくことが、わかるから、

 

「じゃあ。アンタは、何を読んでるんだよ。」

話題を変えるかのように、男の手の中の本…それは何かと聞き返す。

「んー?官能小説。」

「はぁ?!」

「団地妻が退屈しててさ、水道工事にやってきた業者の若い男を誘惑してー、そんでAVなみの

激しいプレイしちゃうわけ。でもそこで運悪く、出張から帰ってきた旦那に見つかってあら大変!」

「もういい!この変態!!あっちいけ!」

 

手にしていた本を、相手に投げつける。

男はそれを難なく交わして、部屋を出ていく。

「夜7時。」

「は?」

「夜7時に、迎えにいく。部屋にいろよ、いいな。」

「なんで、」

聞き返すが、返事はせずに扉は閉まる。

男との会話はあまり多くを交わしてきたわけではないが、基本自分勝手で一方的なものが多いのだ。

クラウドは男の友人ではない、ただの『エサ』に過ぎないのだから、それは当然ではあるのだけど。

 

(どうせまた…)

どうせまた、男に犯されるのだろう。

出逢ったその日に暴かれてからというもの、男にそれを強要されることはなかった。

だが、男は言っていた。

「次」があると。

その忌まわしい行為は、また繰り返されるのだ。

 

どうせ、男の腹の中に入る体。

今更あがいたところで、意味はない。

(…好きにすればいいいさ。どうせ俺はエサなんだ。)

投げやりにも似た気持ちでため息をつき、クラウドはランプを片手に腰を上げる。

 

さっき男に投げつけた本。それの続きを読もうとして、部屋の隅へ――…

目に入ったのは、先ほどまで男が読んでいた本。

 

 

「……恋愛小説、じゃん。」

 

 

クラウドも知っている。

それは童話にもなっている、北の地方では有名な話だ。

魔法で醜い姿に変えられた男が、美しく清らかな村娘に恋をして、城に閉じ込めてしまう。

女の優しさと一度のキスで、男の魔法は解け、もとの美しい容貌に戻ることができるのだ。

そして、二人は永遠の愛を誓っていつまでも幸せに――

そんな、ありきたりだけど誰もが望むハッピーエンド。

 

「どっちが、子供だよ。」

こんな夢ばかり描いた本。クラウドだって手にとったりはしない。

ひどく乱暴で、ひどく穏やかで。

飄々としているかと思えば、何か深い傷を隠していて。

何にも興味がないようで、あらゆる知識や情報を求めている。

 

そうして。

独りがいいといいながら、こうして意味もなく一緒に過ごしている。

 

男は、何者なのだろう?

聞きたいのは、彼が「人間」なのか「化け物」なのか、そういうことではなくて、ただ。

 

 

 

 

 


 

コンコン、

 

約束の七時。

遠慮がちに部屋をノックされて、クラウドは返事に困る。

いつもであれば、気付けばランプの灯を消され、無許可で部屋に入ってくるのが常なのに。

「入っていいか。」

「駄目。…って言っても、入るんだろ。」

 

嫌味をこめてそう返せば、男の返事はそれ以上なく、部屋のドアが開くこともない。

「………?」

もしや機嫌を損ねて、戻っていったのだろうか。

放っておけばいいのに、どうしてか気になって。思わず、クラウド自らドアを開けてしまう。

 

トン、

 

「わ、びっくり…した。」

てっきり男はもういないと思っていたのに、部屋の前で立ち尽くしていたらしい。

二人の体がぶつかり、動揺した様子であるその男の声に、こっちの方が驚いてしまう。

「…何。何の用なわけ。」

どうせ、男は汚い欲望を持ってここにやってきたのだろう。

この後、あの日のように裸に剥かれ、嫌だと抵抗すればそれを笑われ、そしてまた…

中を乱暴に刺し貫かれるのだ。悍ましいことに。

 

「……用、っていうか。なんだ、だから…」

「……。」

「…日も暮れたし、その…」

「……。」

的を得ない男の言葉。粗暴であるはずの男の、らしくない態度に奇妙な気分になる。

 

 

 

「…そんな露骨に嫌な顔されると、さすがに誘い辛いんだけど。」

 

 

 

男は、大きくため息をはいた。それが少し癇に障る。

ため息をつきたいのはこっちだというのに。

「そりゃ、俺みたいなのとメシなんか食いたくない、かもだけど。」

「……え?」

「いつもより多く作ったから。……ダイニングにこいよ。」

「……晩ごはん?」

 

耳を疑った。男は、食事の誘いをしにきたというのか。

いつも食事は、男が一日に三回。クラウドの部屋の前に黙って置いていった。

どうせ死を待つ身。それに手をつけまいと思っていても、

食事を一切しないというのは、やはり不可能なわけで。

全てを平らげるわけではないが、いつも半端に口にしてしまうのだ。

…出される食事が結構おいしい物だったりするから、なおのこと、手を出してしまう。

とくに朝食に出される焼きたてのスコーンは、チョコチップが一緒に蕩けてかなり美味しい。

 

「オマエ、小食だろ。出したもんいつも残すし。これ以上痩せたらどうすんだよ。」

食事を残すのは、クラウドの意地というか、男への反発心なのだけど。

「オマエの好きそうなもん、作ったから。…リクエストあれば、まだ作るし。」

いったい、どういう意図があるのだろう。

男がクラウドの好物を作って、それが男のメリットになり得るというのか。

 

 

 

 

「…俺を太らせて、食うの?」

 

それ以外に考えられなくて、思わず男に問う。

「え?食うって……はは、なるほど!」

男が笑う。

それはいつか聞いたような自嘲のそれではなくて、純粋に笑みが零れたという感じだ。

「俺は人食いじゃねえよ。安心しろ。」

「人食いじゃない、って…じゃあ、なんで、」

 

 

 

どうして生贄が必要なのか?

 

 

 

「村の連中は、わかってるんだよ。」

「え?」

「野獣が、人間を食わないってことぐらい。」

「じゃあ、なんで?生贄を渡せば、崇りはなくなるって…違うのか?」

「野獣に可愛い子渡しておけばさ。ご機嫌とりになるだろ。そうすれば、野獣がこれ以上

人を殺めたりしない。――崇りは終わる、ってこと。」

どこかその言葉は、他人ごとのように聞こえる。まるで、お伽話を聞かせるような。

 

 

 

「本当に。…本当に、アンタが崇りを起こしてるのか?」

 

 

 

本当に、人を死に至らしめているのか。

そんなことが、出来るというのか――

クラウドにはわからない。だから、もう男に肯定か否定をしてもらうしかなかった。

男はしばらく沈黙した後、静かに言った。

 

 

 

 

「……ああ。殺してやりたいって、そう、何度も思ったからな…」

 

 

 

 

 

 


 

男に手を引かれるがまま、ダイニングにやってきた。

本当は手を引かれるなんて本意ではないのだけど、ランプがないのだから従うしかない。

食堂の長いテーブルのいわゆる『主賓席』に座らされ、男は五席ほど離れた席に腰を下ろした。

これも魔法なのか、クラウドの手元のろうそくが灯り、テーブルの上のご馳走が目に入る。

貧しいクラウドにとって、見たこともないような料理ばかりだった。

 

「食えよ。毒なんかねえから。」

男はそう一言声をかけ、自分もフォークとナイフで食べ始める。

ろうそくの明かりでは、男の手元までしか見ることはできないが…慣れた手つきで器用に肉を切る。

その指先は、想像していた以上にすらりとしていて綺麗な『人の指』だった。

それを凝視していると、男は勘違いをしたらしい。

 

「嫌いなもんあったら、除けとけよ。俺が食うから。」

「い、いただきます…」

バターの香りがよい鳥のロースト、新鮮なサーモンと野菜のマリネ、

木の実がたっぷり入った焼きたてのパンに贅沢なクリームチーズ、どれもあまりに美味しい。

それに…

 

 

「このシチュー…母さんのと同じ味がする。」

 

 

思わずそう言ってしまった後で、クラウドは後悔した。

また男に、「子供」と揶揄されるかと思ったから。

でも、男はそうしない。

 

 

 

「ニブルの家庭料理なんだろ?キノコとハーブの入ったシチュー。本で読んだ。」

 

 

 

まさかとは思うけれど。

男が、クラウドのために本を読んで作ったというのか?いや、さすがにそれはないだろう。

でも、喉を通るミルクの味に、どうしてか目の奥が熱くなって。

「…シチュー、好きなんだ。すごく。」

「うん、」

男は当然のように頷いた。

 

 

 

「オマエが、好きだと思ったから。」

 

 

 

男の言葉を聞いた瞬間、涙が頬を伝い落ちた。

この屋敷にきて以来、ずっと閉ざしていた気持ち。

たとえば、寂しさだとか、悲しみだとか、恐怖だとか。

そういう、男に隠していたはずのそれが、腺を外したように溢れ出ていく。

 

「…う、…ひっく、う…」

まるで、子どものように。嗚咽も我慢できなくて。

男はしばらくの間、何も言葉にせず、ただじっとしていた。

 

 

 

 

「……母ちゃんが、恋しい?」

 

 

 

 

クラウドを『子供』のようだと馬鹿にするではなく。ただ、純粋な問いだった。

「……わか、んない、でも」

「うん。」

「心配、で…俺、どうしたら、いいか…」

 

ひとり、村に残してきた母――

生活は、大丈夫なのだろうか。

クラウドという稼ぎ頭を失って、途方にくれていないだろうか。

それに、もともと病気がちなのだ。

無医村であるニブルヘイムで、医学に覚えのあるものは一人もいない。

クラウド自身が処方する薬草で、母の体調を診てきたというのに。

 

 

それに、村を襲う死の病。

 

 

あれが伝染する病であれば、抵抗力のない母はいつ感染してもおかしくない。

母は、無事なのか?

息子という唯一の家族を失い、悲しみにくれ、そうして一人病気になって。

あの小さな家で、たった独りで、死んでしまうかも―――

 

 

 

「おねがい、」

もう男にすがるしかなかった。

男のもつ『心』に似たものを、たしかにクラウドは見てしまったから。

 

「村を、助けて。」

それを口にすれば、男はあの時のように怒るかもしれない。

「母さんを、助けて。」

誰かを助けたいと願うこと、それをこの男は酷く嫌っているのだから。そうだとしても、

 

 

 

 

「……人間を、許して。俺のことは、恨んでもいいから。」

 

 

 

 

男に、どんな過去があるのか、クラウドは知らない。

わからないけれど、それはきっと、『人が許される』ようなことではないのだ。

許されないようなことを、人間はこの男にした。

そうでなければ、この男が人から『逃げる』ように…まるで『怯える』ように、

こんなところで独り、生活しているわけがない。

それが、わかるから。

 

人間を許せないというならば、自分をどれだけ恨んで構わない。

殺したいというならば、どんな悲惨な死でさえも喜んで受け入れる。

…その覚悟はできているから。

「出来ねえよ。」

男の拒絶の言葉。それが、心臓に突き刺さる。

最後の望みが、たったひとつの光が、まるでろうそくの灯のように消えてしまいそうだった。

「どっちも、出来ない。」

 

  

 

「人間を許すことも出来ないし。…オマエを恨むことも、俺には出来ない。」

  

 

 

ごめんな、と。

男がそう言葉にした瞬間、気付いてしまった。―――男の嘘を。

 

 

 

 

 

本当はたぶん、初めから疑問だった。

崇りなど、呪いなど―――本当は、存在しないのだと。

それは人が自身の行いに、自責の念を感じたがために、作り出した妄想に過ぎない。

そして、この男に、人の命を奪うことなど出来るわけがない。

こんなに、壊れそうなぐらい、寂しがりなくせに。

 

「アンタ、誰…」

 

誰か他人の言葉ではなく。ただ、男自身に答えを聞きたかった。

「知ってるだろ?血も涙もない、醜い化け物だよ。」

村人も、そう言っていた。

「そんなのどうでもいい。俺にとっては。」

たとえ、男がどんな形をしていようとも、化け物でも人間でも。

その体に、血が流れていなくても。どうでもいいのだ。

知りたいのはそんなことじゃない。

 

 

 

 

「アンタの、名前は?」

 

 

 

 

ただ、それが聞きたかった。

彼を呼ぶ「言葉」が欲しかったから。

 

 

 

愛しい、俺の野獣――

 

こんな暗闇の中じゃ、

何も見えないとわかっていたから。

だから、諦めて眼を閉じたんだ。

 

そうしたら、簡単に見えたよ。

 

俺の涙を止めようと困ってる、

アンタの情けない顔。

 

 

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C-brandMOCOCO (2012527

鬼畜どこいった。

 

 

 

 


 

 

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