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【 ご 注 意 】

*「美 女 と 野 獣」 パロディです。とかいって、原作童話どこいった。

*のんびり、亀更新。

 

 

野獣は、逃げようとした人間の子に

残酷な罰を与えました。

 

吹雪の中、身ぐるみを剥いで放り出し…

冷たくなっていくのを ただ笑って見ていたのです。

 

 

Story5.裏切りには制裁を。

 

 

 

 

 

 

「城の外に、出たい。」

 

 

そうクラウドが告げると、野獣――ザックスは、小さく息を呑んだ。

少しの間無言だったが、すぐに何でもないような声で「そっか」と返した。

「いい加減、うんざりだよな。こんな暗くて、埃臭いとこで暮らすなんて…」

「うん。正直、閉じこもってるのはうんざり。」

クラウドが直球でものを言えば、ザックスはハハ、と下手くそな笑い声を作る。

「…そうだよな。でも、俺は悪くなかった。オマエと一日中本読んだり、オマエの好きそうな料理作ったり、

馬鹿ザックスって、詰られたり。そういうの……夢、みたいだった。」

「そう…」

「なあ、クラウド。短い間だったけど―――」

 

 

「うっさいザックス!」

「え?!」

 

 

「今夜8時、玄関にこい。遅れたらぶん殴る。」

 

 

「ぶん殴るって…恐いんですけど、クラウドさん、」

「それと、マフラーと手袋、用意しておいて。魔法だか錬金術だかで、作れるんだろ?」

「そりゃ、オマエのためなら何でも作るけど、」

「あ、そっちのイチゴジャムとって。」

「へ?あ、うん」

 

いつも通りの夕食の時間。

ザックス手製のポテトグラタンとバケットを食べながら、クラウドが提案したひとつのこと。

それはザックスにとって…おそらく、最も恐れていたことで、そして。

いつか必ずくるだろうことを予感していた内容だった。

 

 

 

 

城の外に、出たい

 

 

 

 

その言葉の意味は、おそらくクラウドとザックスの間で、理解に大きなズレがあった。

そのときの二人には、知る由もなかったのだけど。

 

 

 

 

 

 


 

 

約束の夜8時。螺旋階段の下、エントランス――

この城にやってきたときに身につけていた手袋やブーツ。

それに城の中も寒いからと、以前ザックスに貰ったセーターや毛糸のケープ。

準備に抜かりはないはずだ。

(でも……ザックスに、何て声をかけたらいいのかな…)

言うべき言葉が、何も思いつかなかった。

今まで村では、ティファ以外に友達などいなかったから。

 

思いあぐねていると、螺旋階段を下りる足音が聞こえる。

ザックスに消されるよりも先に、クラウドは手元のランプの明かりを自ら消した。

すっかり暗闇での生活にも慣れてきたところだ。

「……行くのか?」

ひどく名残惜しそうに、彼はゆっくりと近づいてくる。

「手袋とマフラーは?」

「持ってきた。それに、馬はないけどチョコボが納屋にいる。使っていいから、」

「じゃあ、いくよ。」

「…………ああ、」

 

 

「何ぼさっとしてんの?さっさと手袋はめてこいってば!」

「え??」

ザックスの態度にじれて、クラウドがそう怒鳴りつけても、彼はまるで状況が把握できていないようだ。

 

 

 

 

「雪遊び!したいんだってば!」

 

 

 

 

錠を外してエントランスの扉を大きく開けると、クラウドは勢いよく庭へと駆け出した。

外もやはり暗闇ではあったけれど、一面に積もった雪の絨毯が、ぼんやりと視界を助ける。

広い中庭――何もない、雪で覆い尽くされたそこで、クラウドは小さな雪の礫を握って、

それを玄関前で立ち尽くしている男に投げつけた。

 

「うわ!つめてっ!」

ほとんど彼のシルエットしか認識できないでいるけれど、どうやら命中したらしい。

「ちょ…クラ、なに?これどーゆうこと?!」

状況を把握できていない男に、続けざまに2個・3個と雪の礫を投げつける。

「ぶわ!待って!ストップ!」

慌てる彼が可笑しくて。つい、声を出して笑ってしまった。

 

 

「雪合戦、一度やってみたかったんだ。ザックスはやり方知ってる?」

「いや、知らない…これって、遊び?」

「そう。相手がくたばるまで、雪を投げつけるっていう遊び。」

「そんな殺伐とした遊び、あるの?!」

また雪を丸めて、ザックスに向かって投げる。

村では同性の親しいトモダチなどいなかったから、クラウド自身こんな遊びは経験したことがない。

部屋の窓から、みんなが楽しそうに遊ぶのを眺めていただけだった。

 

「うわ!」

頭に小さな雪の塊が当たって砕けて、ザックスによって投げられたものだと知る。

いや、投げられたというよりも――そっと頭の上から雪をかけられた程度の。

「……もっと、力いっぱい投げろよ。男だろ。」

「いや、オマエに思い切り投げつけるなんて、無理。痛かったら可哀想だし。」

「はあ?!」

 

それでは雪合戦にならない。

何度投げつけてみても、彼からはまるで軟弱な攻撃しか返ってこないから、呆れてしまう。

それならばと、ザックスがやめてくれと慄くような大きな雪の塊を作っていると、

ふと違うことをしたくなって、クラウドはそれを転がし始めた。

 

小さな雪の塊が、少しずつ体積を増して、大きな白い球体になっていき―

「ザックスも作ってよ。」

「え?なにを?」

「雪だるま!」

ふたり、必死で雪を転がし続ける。

気温は氷点下、冷たい空気が頬を冷やすけれど、舞い散る雪は柔らかくて優しい感触がした。

 

もうこれ以上は転がせない、というところまで大きくなった雪の塊。

クラウドがその表面を固めていると、ザックスの作った球体が隣にやってくる。

クラウドのそれよりも、一回りも二回りも大きい。

悔しいが、この対比ではクラウドの方が「顔」で、ザックスの作ったものが「胴」だろう。

自分の作ったそれを両手でつかみ、何とか持ち上げようとするけれど、ぴくりとも動かない。

…雪がこんなに重いものだったなんて。

「クラ、貸してごらん。」

ひょいと、軽々持ち上げて。ザックスの作った「胴」の上にそれを乗せる。

 

「……言っておくけど。俺だって本気を出せばこれぐらい、」

「ぶっ!オマエ、どんだけ可愛いんだよ!」

 

ザックスが声に出して笑う。

それが悔しくて、ザックスをどついてやるけれど。

どうしてか彼は嬉しそうにひとしきり笑って、クラウドの髪の上の雪を払った。

 

 

 

「ほい、これ巻いとけ。」

 

 

ふわりと温かいものが、首の周りを覆う。

「……これ、ザックスのマフラーだろ。」

自分はどうするんだと、それを突っ返そうとすると。

 

「いいよ、オマエにやる。俺は寒くないから――」

 

寒くないなんて。この雪の中で、そんなわけがないだろう。

いぶかしんでいると、彼は小さな声で何かを呟いた。

「化け物だから」と、そう言った気がする。

 

 

 

 

 

雪だるまを完成させて(顔はたぶん不細工だけど、大きさはかなりのものだ)、また雪合戦をして。

…というか、一方的にクラウドが雪を投げつけて、ザックスは必死に逃げ回っていた。

そうして、最終的には二人で「カマクラ」まで作りあげてしまった。

雪で作った小さな家――

それもなかなかの大きさで、男2人が中に入っても余裕があるほどの空間だ。

 

こういうの、村の子供たちはたしか秘密基地≠ニ呼んだ気がする。

雪洞の中で腰を下ろそうとすると、ザックスは自分のジャケットを尻の下に敷き、

そこに座るようにと言う。なんというか、変に気が利く男だ。

「なんか、こういうのってワクワクするな。」

そう言うザックスは、本当に楽しそうで。

ほんの三週間ほど前に会ったときには、触るもの、近づくもの全てを疎んでいたというのに、

今の彼はまるで懐こい子犬のよう。

 

ふわり、今度は頭上を温かい何かが覆った。

「何これ?」

「毛糸の帽子。似合うよ。」

「これも、ザックスの帽子?なんか、アンタのイメージに合わないんだけど…」

頭上を手探りで確認すると、大きなボンボンがてっぺんについているではないか。

こんな可愛らしいものを、ザックスが被っていたというのか?

 

「ニブルヘイムの子供は、みんなこうやって雪で遊ぶのか?」

「うん。俺は窓から見てるだけだったけど。…トモダチ、いなかったから。」

ザックスが、ふっと小さく息を吐いた。きっと、優しい顔で笑ったのだろう。

「みんな、オマエと遊びたかったと思うけどな。」

「そんなわけない。俺の家、母子家庭で貧乏だし。…ううん、そうじゃなくって、俺、」

「うん?」

 

 

 

「母さんのせいでも父さんのせいでもない。俺が、仲間に入れてって言えなかったから。

だから、友達がいなかったんだ。」

 

 

 

誰のせいでもない。少し前まではそれを認めることができなかったのに、

今こうして事実を受け入れられるのは何故だろう。

それはたぶん、ずっと欲しかったものが――今、手を伸ばせば届くところにあるから、

 

「ザックスは、俺の……なに…?」

「え――」

違う。そんな言い方では駄目だ。

欲しいのならば、言葉にしなくてはいけない。そう思って、言い直した。

 

 

 

 

 

「俺の、トモダチに…なってください。」

 

 

 

 

「クラ……っ」

返事の代わりに、勢いよく抱きすくめられて。

暗くて見えないけれど、もしかすると、また泣かせてしまったかもしれない。

 

クラウドの頬に、そっとザックスの手が触れる。

そのひやりとした感触に、彼が手袋をしていないことに気付いた。

そうして、優しくクラウドの顎を捕らえると、遠慮がちに唇が下りてきた。

 

 

 

 

頬に、触れるか触れないかの――優しくて、臆病なそれ。

 

 

 

 

(…ザックス。ねえ、手袋…どうしたの?)

そう聞けば、彼は何て答えるのだろう。

その辺に落としてしまったと、そんなわかりやすい嘘をつくのだろうか。

それが容易に想像できるから、わざわざ聞いたりはしないけれど、

 

「ザックス、ありがとう。」

「…なにが?」

「帽子、あったかいよ。」

 

魔法の力で、『ザックスの手袋が、クラウドの帽子に変えられた』こと。

その種明かしにクラウドが気付いたことを悟ると、彼はバツが悪そうに、いや、照れくさそうに。

「俺は、全然寒くないんだ。化け物だから――」

「ほんとに寒くないの?全然?」

「ああ、全然。化け物だから。」

「化け物、化け物って…ザックスはザックスだろ。そういう風にいうな。」

 

 

「化け物、だよ。」

 

 

ザックスは、静かに、けれど迷いなくそう言い切った。

「俺、寒いとか熱いとか、痛いとか。そういう感覚ないんだ。」

「え…?」

「人間に刺されても、撃たれても、燃やされても――死なない。」

「それって、」

「な?そんな奴、化け物だろ。」

 

 

 

それはつまり、人間にそのような仕打ちを、かつて受けたと――

 

 

 

「気持ち悪い、だろ…」

繰り返すザックスの、自己への嫌悪の言葉。

そんなわけがないと言ってあげたいのに、言葉が出てこない。

何を言っても、人間≠ヘ許されないのだと。途方にくれるような気持ちだった。

 

 

 

「……恐くないよ。もう。」

 

 

 

やっと出てきた言葉は、ひどく見当違いなものだった。

もっと相応しい言葉があるはずなのに。

「俺が、守ってあげるから………」

知識もない、経験もないちっぽけな自分に、そんなことが出来るものかと彼は笑うだろうか。

でもそれが、嘘偽りない、あるがままの気持ちだった。

 

 

「…クラウドは、優しいなぁ。」

ザックスが今、笑っているのか、悲しい顔をしているのか。クラウドにはわからなかった。

「オマエみたいなやつがいるって、知ってたら―――」

 

 

 

 

 

人を殺したりしなかったのに、と。

 

 

 

 

 

 


 

 

ずいぶん長い間、二人、雪洞の中にいた。

クラウドの一枚のケープを分け合って、寄り添って。口にするのは、他愛もない話ばかりだ。

春がきて雪が融けたら川で遊んでみたいとか、いつか、海を見てみたいとか。

ニブルバードの雛の名は何がいいだとか、今ザックスの育てている花が小さな蕾をつけただとか。

 

もっと、話していたかった。ずっと、こうしていたかった。

でも、夜はいずれ明ける。

空が明るんでくるのを恐れて「部屋に戻ろう」と言ったのは、ザックスではない。

クラウドの方だった。

 

 

 

 

 

日の光が、彼の姿を晒したとき、

きっとザックスは、クラウドを捨てるのだろう。だから、

 

 

 

 

 

ザックスに手を引かれて、彼の部屋へと二人で戻った。

青い扉を開ける前に、「オマエの部屋で寝るか?」と問われたけれど、首を横に振った。

 

「…男の部屋にくるって、どういう意味かわかってる?」

それは暗に自分の部屋へ戻れと、そう言われているのだろうけれど。

「意味なんてわかってる。俺はザックスを信じてるってこと。――それだけ。」

そう強気に返すと、ザックスは大きく溜息をついた。

「そんな風に言われたら、手出せないじゃん」と。

もとより勇気などないくせに、自分なんかを泣かす度胸もないくせに。

 

ザックスのベッドの中で、彼にすり寄ると。

彼はクラウドが寒いのだと勘違いをして、毛布をまた一枚クラウドの体にかける。

「まだ寒い?」

「ううん。ザックスが甘えんぼうだから、しょーがなく。」

彼の胸に顔をうずめて、憎まれ口を叩くと、ザックスはくすくすと優しく笑った。

 

「…どっちが甘えんぼうだ。あんま可愛いこと言ってると、マジで食っちまうぞ。」

 

いったいどっちが、どっちを、甘やかしているのだろう。

わからないけれど、ただ、相手がひたすら愛おしいという気持ち――

それが胸の奥底から切ないほどに這い登ってきて、もうどっちだっていい気がした。

 

 

 

「ザックス。…朝まで、ここにいる?」

「いるよ。ずっといる。」

 

優しい嘘をつくザックスに、クラウドは小さく笑った。

どうせ明日目が覚めたとき、彼は姿を消している。

光に満ちたリトルガーデンの中、クラウドは独りきりの朝を迎えるのだ。

 

 

 

そうして、絶対に届かないその距離に、胸が張り裂けそうになるのだろう。

 

 

 

 

 

 

愛しい、俺の野獣――

 

アンタみたいな犬ころ、俺が恐がるだなんて

思い上がりもいいところ。

 

それでも もしも、

俺がアンタに恐れをなして逃げ出すようなら

 

そんな裏切り者は

殺してしまえばいいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2012715

クラウドさんも すっかり恋に堕ちました。

 

 

 

 


 

 

 

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