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【 ご 注 意 】

*「美 女 と 野 獣」 パロディです。とかいって、原作童話どこいった。

*のんびり、亀更新。

 

野獣が少し力をこめれば、

人間の腕など いとも簡単に折れてしまいます。

 

生かすも殺すも、男の思うが儘なのです。

 

Story6(いばら)の抱擁

 

 

「…で、クラウド。なんで怒ってるの?」

「怒ってない。」

「でも、顔むすっとしてるじゃん。」

「怒ってない。」

「さっきから何聞いても、『怒ってない』しか言わないし。」

「…怒ってない。」

 

ザックスは「はあ」と小さくため息をついて、席を立った。

クラウドから見えた彼の手は、食べ終わった器を持っていて、それを片付けに行ったらしい。

いつもであれば、クラウドが食べ終わるまで、コーヒーを飲みながらそこに座っているのに。

これはクラウドの思い過ごしかもしれないが、ザックスが席を立つときの物音がいつもより

大きい気がして、彼が苛立ったのではないかと心配になった。

 

…苛立ちもするだろう。

朝からクラウドはザックスを避けていて、わざと日の当たる庭に出て、彼と接触しないようにした。

おそらく朝食だって用意してくれていたはずなのに、クラウドはダイニングに行かず、

昨夜二人で作った『カマクラ』の中にいた。何をするでもなく、ただ、そこにいた。

そこは、二人だけの秘密基地――でも、ザックスは絶対にこない。

 

それを知っているから。

 

 

 

 

 


 

日が沈んで、周囲が闇を覆ったとき。

「やっぱりここか」と言いながら、ザックスが雪洞の入口から手をのばしてきた。

雪洞の中はほとんと消えかかってはいるものの、小さなランプが灯っている。

だから、ザックスは顔を覗かせず、腕だけを伸ばす。

 

「…何時間ここにいた?」

「……さあ、」

「朝からずっと、だろ。風邪ひいたらどうすんだよ。それに、いくら庭の中って言っても、

野犬やモンスターだっているかもわかんないだろ。この馬鹿、」

 

「じゃあ、探しにきてくれれば良かったじゃん。」

 

そう思わず返したとき、内心しまったと思った。

子どものように拗ねた気持ちで、我儘を言ってみたかっただけなのに、

それはザックスを責めているように聞こえる。

ザックスがどうあっても日の下に出れないことを知っていて、こんなことを言うなんて。

…なんて陰湿な仕打ちだろうか。

 

きっとザックスは、屋敷の中で一日中、気が気でなかったはずだ。

実際日が沈んだと同時に、ザックスは迎えにきてくれたのだから。

 

 

 

 

「……俺に会いたくないから、ここにいた?」

 

 

 

 

なぜ、一日中クラウドがここで過ごしていたか。

ザックスから逃げたのだということぐらい、当然、彼も思い至るだろう。

それが事実なだけに、何も返事を返せずにいると、ザックスは差し伸べていた手を引っ込めて 

「とにかく、屋敷に戻れ。夜はまた雪が降るらしいし――オマエ、凍っちまうぞ。

それに、朝から何も食ってないだろ。何かあったかいもん作るから、」

「………。」

 

「言うこと聞け。そろそろ、俺も怒るぞ。」

 

そこを動こうとしないクラウドにじれたのか、ザックスは少し声を低くする。

従うほかなくて、そのまま城へと戻った。その間、二人はほとんど何も喋らなかった。

 

 

 

 

 

 

ザックスに促されるまま、ダイニングの席についた。

いつもより数倍大きな炎を上げて燃える暖炉の前で、運ばれてくる温かいスープを口にする。

相変わらずそこに会話もなく、クラウドが鼻をすする音だけが響いた。

雪国育ちであるから寒さには強いし、雪洞の中はそんなに寒さを感じないのだけれど、

それでもさすがに体が冷え切っていたらしい。

 

ザックスはいつもどおり、クラウドから五席ほど離れた席に座り、何事もなかったように食事をしていた。

きっといろいろ聞きたいはずではあったが、あえて聞いてはこなかった。

否、ただ聞けなかったのかもしれない。

それでも食事中、始終無言の空気に耐えきれなかったのか、一言だけ彼はクラウドに聞いたのだ。

「なんで怒っているのか」と。

 

 

 

 

 


 

結局、話は平行線――

クラウドは『怒っていない』の一点張りだし、ザックスは『怒っている』と決めつけているし。

ザックスが席をたち、一人ダイニングテーブルに残されて、何を言うべきかと内心思いあぐねた。

 

実をいえば。本当に、怒っているわけではないのだ。

 

ただ、朝ザックスの部屋で目が覚めてから、どうしても彼と顔を合わせることが出来なかっただけ。

顔を見られたくなくて、避けていただけなのだ。

 

 

食事の後、クラウドはいつもどおり書斎に向かったが、ザックスはやってこない。

クラウドが書斎で読書をしているときは必ず、彼はマグカップをふたつ持って、

この部屋を訪ねてくるはずなのに。

あれだけ避けていたのだ、ザックスもそれを悟っているはずだし、遠慮をしているのだろうか。

あるいは、クラウドの態度に怒っているのか。呆れているのか。…愛想をつかされたか。

 

いつもはあれだけ夢中になる読書も、どうあっても集中できない。

結局一時間もしないうちに、クラウドは自分の部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

部屋の中は、どういうわけかいつもより室温が温かかった。

見れば、ベッドの上にも、多すぎるぐらいの毛布が積まれている。

明らかに、ザックスの仕業だ。

「ザックス…いるの?」

狭い室内からは、なんの声も返ってこないし、人の気配もない。

もう彼は自分の部屋へと戻ったのだろう。

 

きっと今夜、彼はクラウドを訪ねてはこない。

温められた部屋、それに積まれた毛布は、体の冷えたクラウドへの配慮では勿論あるけれど、

同時に「彼の部屋」へ招きいれてはくれないのだという事実でもある。

それをわかっているのに、クラウドは手元のランプを消して、彼を待っていた。

(…なんで、)

どうして、来てくれないのかと。

自分は何て理不尽で、勝手なことを考えているのだろう。

 

優しいザックスを心配させて、「探しにきてくれない」などとどうしたって出来ないことを要求し、

彼を傷つけてしまった。

そもそも、言葉にもしないで、わかってもらおうなどと――

それでは子供の頃と何も変わっていないではないか。

部屋の窓から、手も伸ばさず、『欲しいもの』をただ眺めてみていたあの頃と、

 

(会いたい、)

 

 

 

 

いてもたってもいられず、ランプを片手に部屋を飛び出していた。

螺旋階段をのぼり、長い廊下をわたって、一番奥の青い扉――

そのドアの前で、ノックをすることも、ノブに手をかけることも出来ず…ただクラウドは立ち竦む。

(ごめん、って言えばいいの?それとも、怒ってないよって言えば…)

謝罪の言葉も、言い訳の言葉も思いつかない。

 

コンコン、

 

それでも、震える手でドアをノックする。

返事はない。

 

コンコン、

 

数回ノックを繰り返しても、何の反応も返ってこない。

ザックスは、中にいるのだろうか。

「ザックス、いる、の…?」

部屋の中にいるのに、クラウドを避けて返事をしてくれないのだろうか。

「お願い、あけて―――」

クラウドに愛想をつかし、興味を失せ、だから――

思考が勝手に廻っていく、勝手に堕ちていく、

 

 

 

 

ドン!!

 

 

 

 

突然、クラウドの後ろから、伸びてきた二本の腕。

それがドアに押し付けられて、その音にびくりとクラウドは肩を揺らした。

「………っ」

「ごめん、驚かせたか?」

クラウドの背後に立つ、男の気配。

クラウドをドアに押し付けるように、そうしてその身体に寄り添うように立っているのは、

 

 

 

 

「ザックス…?」

「ごめん、待てなくって。オマエの部屋に、迎えにいっちゃった。」

 

 

 

 

すれ違ったな、と笑う男。

その笑い声はとても優しい音をしていて、クラウドの肩から力が抜けていく。

 

「俺、のこと…避けてたんじゃ、ないの……?」

「俺が?避けたのは、クラウドの方だろ?」

「そう、だけど…」

やはり、ザックスもクラウドが避けていた事実を、気にしていたらしい。

それでもクラウドの部屋に、自分を迎えに行ってくれたというのか。

 

 

「昨日、クラと同じベッドで寝てさ。すっげえ幸せだった。夢みたいで、夢だったらどうしようって思って、

馬鹿みたいだけど、マジで一睡も出来なかった。」

「…俺は、さっさと寝てたよ。」

「知ってる。可愛い寝顔、見放題だったし。」

くすくすと笑うザックスの吐息が、耳元にかかって。それに嫌悪からでない鳥肌がたつ。

 

 

 

 

「でも、朝になったらさ。オマエを置いて、ベッドから抜け出して。……辛かった。」

 

 

 

 

「俺が、怯えると思った?」

「……オマエのこと、信じてないとかじゃない。そうじゃなくって、」

「違くない。ザックスは、俺のこと信じてないんだよ。」

「信じてるよ。でも、」

 

 

「信じてない!」

 

 

思わずヒステリックに叫んだ後で、虚しさやら罪悪感やら、後悔やらがクラウドを襲った。

ザックスがクラウドを、いや、『人間を』信じられないのは、彼のせいではない。

人間が、何か取り返しのつかないことを、彼にしたから。

それが何なのかわからないけれど、きっと気の遠くなるような大きな罪を犯した。

だから――

 

「ごめん、ザックス…!違くって。俺、人間だし。アンタからすれば子供だし。

信じられるわけないって、知ってる。アンタのこと、何もわかってないのかもしれないし。

もしかすると、本当に、アンタが言うように、怖がったりするのかもしれない。でも…」

 

あれだけ信じてほしいと言いながら、信じるに値しない薄情で弱い人間なのかもしれない。

少なくともクラウドは、人間は、前科があるのだから。そうだとしても、

 

 

 

 

「もし俺が裏切ったら、殺していいから。だから――ザックスの、傍にいたいよ。」

 

 

 

 

もしもクラウドが裏切るようなことをしたら。

たとえば、彼の顔を見て、少しでも体を震わせるようなことしたならば、

裏切り者と罵りながら、さっさと殺してしまえばいいのだ。

でも、この『野獣』にそれが出来るわけもなくて――

 

「……オマエを殺したりしないよ。裏切られたって、いい。」

 

腹に手をまわされて、そっと抱きしめられた。その優しい手の力が、たまらなく愛しいけれど、

「そのときは、クラウドのこと。ちゃんと逃がしてやるよ。」

「…言うと思った。臆病者。」

ザックスをこうして詰ってみても、きっと彼はクラウドを傷つけたりはしない。

 

「言っただろ?オマエを泣かすぐらいなら、死んだ方がいいって。」

あまりにらしい<Uックスの言い分に、クラウドは小さく笑った。

 

 

 

 

「……今朝、泣かせてごめんな。」

 

 

 

 

泣き顔を見られたくなくて、彼を避けていたこと――

きっととっくに、彼にはばれていたのだろう。

あれだけ雪洞の中で、一日中泣いていたのだ。目もかなり腫れているに違いない。

 

今朝、ザックスの部屋、彼のベッドで目が覚めて、隣に彼がいなかったこと。

それは覚悟していたことだったのに、あまりに、悲しかったのだ。

ザックスに、信じてもらえないことが。

…ザックスが、いまだに『独り』に怯えていることが。

 

 

 

可哀想で、愛しい、野獣。

 

 

 

「悪いって思ってるなら。もっと、」

「え?」

「もっと、ぎゅって、して…」

 

クラウドの言葉に応えるように、ザックスは腹に回した手に力をこめる。

もっともっと、強く抱きしめてほしい。

 

壊れるぐらいに、強く、強く、強く――

 

でも、彼は絶対に、そうしない。

いっそ壊してほしいと願っても、それでもクラウドが壊れないように、優しく包んでくれるのだ。

 

 

 

 

 

愛しい、俺の野獣――

 

乱暴で、馬鹿力、それに棘だらけのその腕で。

それでも 俺が傷つかないようにって

アンタは必死だったけど。

 

生きていれば 傷ぐらいつくよ。

 

だからもっと 強く

抱き締めてほしかった。

  

 

 

 

 

 

 

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C-brandMOCOCO (2012717

書きたいことだけ書いて ほとんと展開進んでない気が…

 

 

 

 


 

 

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