【 ご 注 意 】
*「美 女 と 野 獣」 パロディです。とかいって、原作童話どこいった。
*のんびり、亀更新。
*性描写あり。ぬるめですが、苦手な方はご注意ください。
野獣は、色を好む――邪悪な者。
野獣に食われれば その肉は汚れ、
二度と「ひと」には戻れないのです…
Story8.二匹の野獣
「クラウド、調子はどうだ?」
「ん…大丈夫、」
「全然、大丈夫じゃなさそうだな。頭痛い?気持ち悪い?それとも寒い?」
「………ちょっと、気持ち悪い、かも。」
幼い頃から「大丈夫」というのが口癖だった。
病弱であるのに働き者の母に余計な心配をかけぬようにと、いつだって『いい子』でいたかったのだ。
腹を下しても、村の子供たちにいじめられても、
いつだったか見知らぬ大人の男に悪戯されかけた時でさえも――母には秘密にしていた。
他に相談できる相手もいるわけもなく、「大丈夫、大丈夫」といつだって
暗示のように自分に言い聞かせてきた。
けれど、この男の前では、「大丈夫」が通用しない。
一人にしないでと我儘を言ったり、気持ちが悪いのだと訴えたり…
子供っぽい本来の自分≠ェ出てしまうのだ。それはたぶん、
「そっか。…これで、少しは違うか?」
この男が、全て受け入れてくれると知っているから。
優しく背を撫でる手。
その大きな手が、自分の背中をゆっくり上下に動くたびに、そこがじんわりと温かくなっていく。
「これも、魔法なの…?」
ザックスが、また優しい魔法をかけてくれたのだろうか。
「ん〜似たようなものかな。手当て≠チて、いうんだ。」
「手当?」
「言葉どおり、痛いところに手を当てること。ちょっと、非科学的だけど。人間の手って、
不思議な力があってさ。こうして痛いとこに手を当ててると…少し、楽になるだろ?」
「うん…」
ザックスの言葉どおり――彼に触れられたところから、身体の痛みが消えていくようだ。
「良かった。」
優しい、野獣の手。野獣の、こころ。
誰の手にも、そのような力が存在するというのなら、クラウドの手も同じなのだろうか。
ザックスの抱える痛みも、全て取り除いてあげられたらいいのに。
(…でも、出来ない。)
頭や背中とは違う。
心というものは、きっと簡単に手を伸ばすことはできない、身体の深いところにあるから。
「クラウド、頼むから、そんな顔するのやめて…」
「?」
「ほっぺたピンクとか、涙目とか…おまえ、どんだけだよ。」
「???」
汗で濡れた体を清め、衣服を替えてやるとザックスが言うので、それに甘えることにした。
だいぶ回復してきたから、自分で着替えることも出来たけど、まだ少しだけ体がだるい。
ザックスに服を脱がされると、冷たい空気が肌に触れて、震えてしまう。
思わずザックスの背に縋り付くと、彼は「え?ちょ、まって、え?!」とおかしな奇声ばかりあげる。
寒いのだと涙目で訴えれば、ザックスは慌てて温かいタオルで体を拭き始める。
冷えた体に、温かいタオル。
それがあまりに気持ち良くて、つい目を細めてしまう。
「ザックス、気持ちいい…」
「……良かった。」
「ん…、あ、もっとして…?」
「…うん、いいけど。」
「ザックスの、あったかい…」
「………………あのな〜〜〜〜!!」
ザックスが、大きく溜息をついた。そうして「この天然が!」と恨めしそうに文句をいう。
どうしてザックスが呆れているのか意味がわからず、彼を見上げると。
ザックスにまた、恨み言を言われてしまうのだ。
「頼むから、上目遣いとかやめて。小首かしげるのも駄目。マジで変な気持ちになる。」
「変な気持ち?」
「だから……オマエに酷いこと、したくなるから……。」
やっとザックスの言葉の意味を理解して、クラウドも思わず赤面してしまう。
ザックスが、自分などに欲情をするなんて、俄かには信じられない。信じられないのだけれど――
実際、ザックスによって犯されたのだ。たった一度だけのことであるが。
「ザックスは…したい、の?ああいうこと…」
あの行為は、いわゆる『セックス』というものなのだろう。
本来は永遠を近い、愛し合う夫婦が、子を宿すために行うこと―――
と、クラウドの中では認識していた。
それが一体どんな風に行うかという具体的な知識までは、クラウドには無かったのだけど。
『セックス』という言葉を使うのは恥ずかしく、ぼかして聞いてみるも、それさえも恥ずかしい。
クラウドのシャツを着せているザックスの指先が、一瞬止まった。
「そりゃあ、男ですから。」
そう短く答えて、またクラウドのシャツのボタンを閉め始める。
「もう、しないの?」
熱で少し頭がぼんやりしている。だからこそ、こんな露骨な質問ができるのだろう。
「していいのか?」
ほんの少しだけ…ザックスの声が、低くなった気がした。
それが怖く感じて、思わず小さく震えてしまった。
「…嘘だよ。オマエにそんな顔をさせたくない。もう、あんな事はしないさ。」
「……。」
「それに、」
ザックスは、いつか聞いたような自嘲めいた口調で笑った。
「俺のこのドロドロした汚いもんで、オマエの中汚すなんて…考えられない。」
「俺は…ザックスが思ってくれるような、綺麗な人間≠カゃないよ。」
ザックスは、たぶん、クラウドを美化している。
あるいは、良いところばかり尊重してくれている。…そんな気がするのだ。
「…クラウドは、綺麗だよ。」
「綺麗じゃない。俺、たぶん、どんなことだって出来る。
ザックスが今まで何をしてきたって、人を殺したっていうのが本当でも――許してあげたいって思うし、」
それは、人としての立場においては、あってはならないことだと思う。
「ザックスが、したいっていうなら…何でも出来る。」
「え…?」
「セ、セックスだって――できる。」
「…えっと、ちょっと待って、クラウド。それって、もしかして………誘って、る?」
緊張と羞恥で、手が震えてしまう。
それを何とかしようと思って、手の先に力を籠めてザックスのシャツをきつく握った。
「……同じにして、ほしいよ。」
「…同じ?」
「ザックスと同じ、ものになりたい。ドロドロしてても、汚くてもいいから…お願い、」
人間でなくていい。
ザックスが自分を化け物と呼ぶのなら、いっそ彼と同じ化け物になりたかった。
「ザックスと一緒になりたい。」
熱のせいなのか羞恥のせいなのか。顔が熱くなって、涙が滲んでくる。
耐えられなくて、思わず一粒、目の端から零れてしまった。
「クラウド!」
勢いよく抱きしめられて、彼の腕の中でその匂いを感じる。
視覚が働かない分、他の五感が強くなっているのか、
石鹸のようなその爽やかで切ない香りに、眩暈が起きそうだった。
「クラウド、クラウド…ッ」
繰り返し呼ばれる、自分の名前。それがまるで、愛を語られているかのような錯覚を覚える。
「クラウド……」
触れるか、触れないか、本当に曖昧なぐらいの。臆病な口づけ――
それではもう我慢できなくて、離れていくその唇をクラウド自ら追いかけた。
彼の頭の後ろに手を回し、思い切って唇を重ねる。
これまで、ザックスにどれだけ近寄っても、手で彼の顔や体を確認したことはない。
彼が嫌がるだろうと、意図的に避けていた。
だから初めて触ったその髪の感触――
それは想像していた通り、固くてハリのある手触りで心地よかった。
そうして、唇の感触――は、よくわからない。
こちらが何かを思うより先に、あっという間にキスをリードされ、角度を変えて貪られ…
永遠に続くようなそのキスに、気が遠くなりそうで、
「…いき、させ…てっ」
息が出来ず、思わず彼の肩を手で押し返す。息をさせろと強請ったその瞬間に、
それを待っていたというように、開かれた唇の隙間から温かい舌が入り込んでくる。
歯茎をなぞられ、舌を吸われ、唾液を奪われ――
こんな風にされるとは思っていなかった。
思っていなかったけれど――恐ろしいほどに、気持ちがいい。
クラウドの言葉どおり、彼と「一緒に」なっているかのようだ。
「ん…んんっ、ふ……」
漏れる声が我慢できない。
もっともっと、ザックスを感じたくて、「一緒に」なりたくて、
思わず彼の頭に回していた手を、彼の両頬に添えた。
瞬間、あれほど激しかった口づけが、ぴたりと止まる。
「……ザック、ス……?」
「………いや、なんでも…ない。」
少し怯えたような声が返ってきて、クラウドの体がその逞しい腕の力から解放される。
もしかすると、顔に触れられたことが不快だったのだろうか。
「ごめん、ザックス。顔、触ったから…怒った?」
「…怒ってない。俺がオマエに、怒るわけないだろ。」
「でも…」
でも、ザックスはそう言うけれど。実際もう、クラウドに触れてきてくれないではないか。
「……怒ったんじゃなくて、吃驚しただけ。俺みたいな化け物の顔、触って平気なのかなって。」
その言葉を聞いた瞬間、頭がかっとなって、思わず彼に飛び掛かった。
――つもりが、視界が真っ暗で何も見えないため、それに失敗して、
そのままベッドから転げ落ちてしまう。
「あっぶねえ…!」
寸でのところで、ザックスによって抱き留められる。
肩から落ちていたから、もしも床に叩きつけられていたら怪我をしていたかもしれない。
「クラウド、どうしたんだよ。マジで危ないって、」
「捕まえた。」
ザックスの両手で抱かれている状態。
それに甘えるように、彼の首へとしがみ付く。
そうして、そのまま――自分の頬を、彼の頬にくっつけてみた。
「………えっと、これはちょっと…」
クラウドを抱き上げているから、彼の腕は抵抗する術はない。
だから言葉で抵抗しようとするものの、動揺しているのかその声は震えるばかりだ。
指の先で、そっとザックスの頬を撫でる。
思っていたよりも、小顔で、シャープなフェイスラインだった。
そうしてそのまま、彼の瞼の窪みをなぞり、鼻筋をなぞる。
彫が深く、鼻筋はすっと通っていて高い。
そうして、唇を指先でつつくと、彼の吐息が指先にかかって、それがなんだかセクシーだった。
「オマエ、気持ち悪くないの…?」
指先でぺたぺたと顔を弄られ、クラウドを抱いたまましばらく黙っていた(というか固まっていた)
ザックスだが、意を決したようにそう聞いてきた。
「気持ち悪いと思ってたら、こんなことしないもん。」
「え?」
ザックスにしがみ付いたまま、目を瞑った。
もうこれ以上、相手を誘う方法など、経験不足なクラウドにはわからなかったから、ただ一言。
「お願い…して、ください。」
「クラウド、恐い?気持ち悪い?」
「…大丈夫だって、言ってる…」
クラウドの、小さなベッドの上。
思い切って足を開いてみたのに、ザックスはといえば、まるきり後ろに触ってこない。
てっきり、最初に襲われたときのように――いきなりそこを貫かれると思っていたのに。
そうすることが『セックス』なのだと思っていたのに。
クラウドの脇腹を撫で、首筋にキスを落としていく。
そうしてそのまま、唇をそっと甘噛みされる。
緩く下唇を食むたびに、それはまるで睦みあうツガイの鳥のようだと、ぼんやりとそう思っていた。
「…やっ、そんなとこ…」
ザックスの指が、胸の飾りに触れる。
最初は撫でる程度だったのに、次第にそれは明らかな意図を持ち、
ピンク色のそれを摘まんでは指先で転がしていく。
「や…っ、やぁ…っ!」
以前犯されたときには、唇を合わせることも、肌を撫でられることも、こうして焦らされることもなかった。
いきなり後ろに突っ込まれ、強引に抜き差しされて、腹の中に欲望を叩きつけられただけ――
そうされることを、今回だって覚悟していたのに。
「乳首、感じちゃうんだ。可愛いなぁ。」
「やぁんっ!やっ、だめ、…ふっ、あっ、」
ピンク色のそこを可愛がるように、何度も何度もそこを捏ねられる。
優しく、けれど時折、押し潰すように。
その間も、キスは止めない。
クチュクチュと舌が交わる音が、ひどく卑猥で、そうしてひどく甘かった。
クラウドの快感を探し当てるかのように、ひどく時間をかけて体を愛撫され――
下半身に熱が集まっていくような感覚がする。
なんだろう、これは。この腹の奥が切なくなるような、小さな痛みに似た何かは。
「こないだは、ちゃんと見てなかったけど。ここも、金色なんだな。すっげえ綺麗。」
ザックスの指先が体中のあらゆるところを撫で、いよいよという風にその下肢に触れた。
そうしてその柔らかい恥毛を、指先で撫でるようにそっと摘まむ。
「…ザックスは、違う色、なの……?」
男親のいないクラウドにとって、成人男性の体を見たことはほとんどない。
村の小さな学校で同級生の着替えを見たことはあったが、それはだいぶ幼い頃の話。
みんな自分と同じようなものなのだと、何となく思っていたのだ。
「そりゃ、全然違う。むしろクラウドの綺麗すぎて、俺と同じものとは思えないっていうか…」
「ザックスは、何色?」
「ずいぶんエロイ質問してくるな…おまえ。」
「だって、気になる。何色?俺より大きい?小さい?」
「エロイ通り越して、完全下ネタだぞ、それ。」
せっかくのムードが壊れかけて、それでも気を取りなおしたようにザックスは答える。
「うーん、俺は黒い。そんで、クラウドの二回りぐらい、でっかい。」
「ふ、ふたまわり?!」
「いや、三回りかな?」
「う、うそ…」
男としてのプライドうんぬんもあるが、それよりも。
これからそれを体内に突きこまれるというのに、その覚悟が怯んでしまう。
「そ、そんなの、入る、の?」
「……うーん、どうだろう。こないだは傷つけちゃったしな。」
初めて犯された日の痛みは、今でも身震いしてしまうほどだ。かなり出血もしていたはず。
「んな顔しなくても、大丈夫だって。今日は、挿れないからさ。」
「え?」
「さすがに可哀想で、んなこと出来ない。だからちょっと、触るだけな。」
「でも…、ひいっ!」
アンダーヘアを撫でていた指先が、今度は、クラウドの未発達の性器を握る。
「ほんと、可愛いサイズだなぁ…いてっ!」
デリカシーのない物言いに、ザックスの頭を思い切りはたくと彼は「ごめんごめん」と笑う。
「俺はまだ、成長期なんだ!これからもっと、大きくなる!」
と、信じたいという願望ではある。
「まあ、クラはまだ16歳だからな。これから身長も伸びるし、身体も変わるだろ。」
「ザックスだって、まだ…18、なんだろ?」
前に、そう言っていたはずだ。聞き間違いでなければ。
「オマエ、俺の言ったこと信じてるの?」
「え……?」
「……ほら、何百年と生きてる化け物。って、そう聞いたことない?」
それは、村では有名な噂話だ。ニブルヘイムの地誌においても、そう記載されている。
「聞いたことはある。けど、ザックスは俺に18才だって言った。」
だから、クラウドはそれを信じる。他の誰でもない、この男の言葉を。
ふっと、ザックスが穏やかに笑った気がした。
吐息がクラウドの性器にかかって、ふるりと体が震えあがる。
「え…?待って、どこ舐めて…うそ?!」
あろうことか、クラウドの性器をその口に含みだし――舌で弄び出したのだ。
「…あ…っ、だ、め…だめっ、だめっ!」
嫌だ駄目だと、首を必死で横に振る。
彼の頭を押しやろうとしても、その口内の感触があまりに気持ち良くて。力が全く入らない。
「こういう風にされるの、初めて?」
当たり前だ――いったい誰に、こんなことを許すというのか。
いや、それよりもなによりも、そんなモノを口に咥えながら聞かないでほしい。
「ふぁん!あ、ん…や……っ」
「出しちゃって、いいよ。このまま。楽になるから、」
体が熱い、熱い、熱い―――
じりじりと焦げるような胸の奥の痛み、腹の下に集まる熱、それに抗いようもなくて、思わず、
「やぁ―――っ!!」
思わず、彼の口の中に放ってしまった。
「あ、あ…っ」
腰がびくびくと痙攣して、いうことをきかない。
彼の口に押し付けるように、のけぞり下半身を突き出す自分は、なんて浅ましいのだろう。
それが居たたまれなくて、恥ずかしくて、思わず近くにあった枕を引き寄せて顔を隠す。
そんなことで彼から隠れることなど出来ないのに。
ちゅっ、ちゅっ、と。
クラウドの性器を優しく吸い上げて綺麗にしてみせたザックスは、
クラウドの脚を解放すると、体重をかけないように覆いかぶさってきた。
「そんな可愛いこと、すんなって。」
俺から隠れるなと。そう笑って枕を取り上げると、唇を押し付けてきた。
「ん、まずい…」
先ほどまでのキスとは違って、青臭い苦みに眉を顰める。
「そうか?俺も初めて飲んだけどさ。なんつーか、オマエのだって思うと美味しいかも。」
とんでもないことを言い出すザックスに、クラウドは絶句してしまう。
「――今日はここまで、な。」
「でも、まだ…」
まだ、ザックスは何もしていない。
別に自分を気持ち良くしてくれと、クラウドは彼に頼んだわけではないのだ。
あくまで、ザックスのしたいことをして欲しいと――そう、思っているのに。
「ザックスのしたいこと、ちゃんとして欲しいよ。」
「病人のオマエに、これ以上のこと出来ねえって。そこまでがっつけない。」
そう、ザックスは言うけれど。
「……本当は。俺みたいなのと、したくないんだろ。」
彼からすれば未成熟な子どもで、経験もなく、人間であるクラウド。
そういえば金の髪も白い肌も、村の子供たちに気味が悪いと馬鹿にされてばかりいた。
「はあ?んなわけねえって。今こう見えて、俺は理性を武器に必死で戦ってるの!」
「…どうだか。」
「いや、マジで。本当は24時間、おまえとエッチしたくてムラムラしてるから。」
「ムラムラ?!」
ザックスからそんな言葉が出てくるとは思わず、つい吹き出してしまう。
「ザックスって…本当は、すごい馬鹿だろ。」
「なに、その悲しい質問。」
出逢った頃の、唸るような話し方、渇いた哂い声、殺意にも似た視線。
それらは、すっかりどこかへ行ってしまった。
あれらが、クラウドの怯えが作り出した幻であったというわけではない。
あれはあれで、ザックスの一部だったのだろう。おそらくは。
だけど、今、クラウドの髪を撫でてくれる指先。
「クラウド」と囁く柔らかい声。
からからと笑う、その心地よい笑い方。
臆病で、寂しがりで、オチャメで、気障で、そうして―――滑稽なほどに、優しい。
それがクラウドの見てきたもので、真実なのだ。
眩しいばかりが真実じゃない。それだけが、彼の全てではない。それはわかっている。
だからいつか、彼の抱える闇に触れた時、触れさせてもらうことが出来た時、
それをなんなく受け止められる自分でいたいと思うのだ。
彼の全てを、受け入れられる自分でありたいと。
「あのさ…クラウド。ひとつ、お願いしてもいい?」
「なに?」
「不味いって、また怒るかもしれないけど…キス、したい。」
「…う、ん?」
「俺たちの、初めてのキスじゃん。それなのに、さっきはあんまりロマンチックじゃなかったし。
思わずがっついちゃったし。ちゃんと、やり直したい。」
「…ロマンって、なに。」
「つまり――こういうこと、」
ザックスが短く詠唱すると、赤や橙、黄色の光の珠が、闇にぼんやりと浮かび上がる。
まるでキャンドルや蛍のよう――部屋の中は、幾多もの光の輝きに包まれる。
光の煌めきで、彼の表情がぼんやりと浮かび上がる。
でも、逆光のせいで、うまく姿を捕らえることは出来ない。
彼の唇が、うっすらと見えた。
白く綺麗な歯を見せて笑う口元――
一瞬、これは現実なのか、あるいはクラウドの幻想に過ぎないのか、境界線が曖昧になった。
それほどまでに、その笑顔は美しかった。
そうしてその唇が、甘すぎるほどの声色で、甘すぎる言葉を語るのだ。
「……好きだよ。クラウド。」
光の中で重なる、ふたつの影。
そういえば、二人にとって今夜が初めてのキスで――
そして、それはザックスから初めて贈られる、愛の言葉、だった。
愛しい、俺の野獣――
この体が綺麗だなんて、夢を見ないで。
汚すのが恐いといって、逃げたりしないで。
醜い形をしてても 黒い色をしていても
アンタと同じモノになりたい。
そうしたらもう 独りぼっちだなんて
泣かせたりはしないから。
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