C-brand

 

 


 

 

 



 

  

 

 

 *ご注意*

@「それは、死に至る病。」その後のお話です。

Aザックスが、相変わらずクラウド大好き病発熱中!です。頭悪いです。

 

 

 

 

―番外編1

仮病を使ってはいけません。

 

 

 

人生で一度、人はみんな大きな病に侵されるのだという。

それを、初恋――と、呼ぶらしい。

 

(…それって。はしか、みたいなもん?)

幼いうちにかかってしまえば軽い症状で済むけれど、大人になってからかかるとやっかいだ。

17にもなって――初めて恋に堕ちた俺は、どうやらかなり重篤な状況

 

恋というものが、こんなにやっかいなものだなんて。

こんなに、痛くて、苦しくて。それこそ、息ができないほどもどかしくて仕方がないのに、

それから逃れるような治療法もないし、薬だってない。

唯一、その痛みがほんの少しだけ和らぐのは――

 

好きな子に、触れたときぐらいだろうか?

 

 

 

 

「ザックスって、すごいいいカラダしてるよね〜」

「えーあたしも触りたい!」

好きでもない子にべたべた触られても、今の俺にとってみれば。

終電で疲れたオッサンに肩を貸してあげてるような感覚。

…当たり前だけど、少しも興奮しない。

 

触りたい相手は、他にいる。

触るだけじゃなくって、撫で繰り回して、抱きしめ殺したいぐらいの相手が。

さっきから、俺の座る席の、斜め対角線上――

あろうことか、一番離れた壁際の席に座っている「クラウド」、だ。

 

彼が今飲んでいるのは何だろうか、とか。

さっきから肉も食べないで、サラダつついてばっかりじゃないか、とか。

退屈してるかな?かと言って、誰かこの子に話しかけたらただじゃおかねえぞ、とかとか…

とにもかくにも、クラウドのことが気になってしょうがないっていうのに。

なんで俺は、クラウドから一番離れた廊下側の席に座って、

酒の注文したり、乾杯の音頭をとったり、女の子に体を障られても笑顔で受け止めなくちゃいけないんだ?

 

「ザックス!酒がたんねえぞ!俺、生ね!」

「私、焼き鳥食べたい〜!」

うるせえ!おまえら、自分で頼めよ!!

…という突っ込みを、喉の奥で飲み込みながら、俺は笑顔で手をあげる。

 

「店員さ〜ん、注文よろしく!」

 

 

 

 


 

1月某日。

今日はいわゆる、神羅における新年会――幹事は、俺。

言っておくけど、これは強制幹事であって、俺が立候補したわけじゃない。拒否権もない。

クラウドと出会うまでの俺は、飲み会・合コン・パーティー、とにかく女の子と飲むのが好きで。

いつからか、『宴会部長』というありがたくない肩書きが付き、気付けば毎度幹事は俺だった。

 

別に、こういう集まりは嫌いじゃない。幹事だって、性に合ってる。

酒は好きだし、女の子と喋るのだって好きだし、男友達と下ネタで盛り上がるのも好き。

だけど、今回ばかりは――乗り気になれない。

今の俺は、呑気に新年会なんてものに参加してる場合じゃないんだ。

 

クラウドに看病してもらって、快復してから一週間。

もう一週間経つというのに、クラウドとの関係は…大きな進展がいっさい無い。

 

いや、進展がないどころか、むしろ――

 

 

 

 

病気のときは至れり尽くせりで、甲斐甲斐しく看病してくれたクラウドが。

治ったとたん、目も合わせてくれなくなった。

あんな酷いことを彼にしてしまったんだから、そう簡単に許してもらえることじゃない。

わかっているけど、何かしなくちゃ気が済まなくて、

それこそ死ぬほどクラウドに謝ったし、彼の好きなお菓子を焼いて機嫌をとったりもした。

 

だけど、いざ真剣な顔で想いを伝えようとすると、泣きそうな顔で逃げられてしまう。

「もう怒ってないから、その話は終わり。」と、眉を下げながら…。

本当に泣かれてしまいそうで、それ以上何も言えなくなってしまう。

 

許してくれるとは思えない。

だけど、言わずにはいられない。

胸の中でただ大きくなるばかりのこの想いを、伝えなくちゃ心が破裂してしまいそうだ。

大好きで、大好きで、大好きで。

そんな言葉しか知らない自分がもどかしいけど、このまんまの気持ちを知ってほしい。

 

風邪は治ったけど、恋の病は依然重傷―――

 

今日こそは、華金で二人とも明日は休日なわけだし、ゆっくり話せると思っていたのに。

新年会なんて、あまりにタイミングが悪い。

(…まあ、クラウドも参加してくれて良かったけど。)

クラウドは、こういう大勢でドンチャン騒ぎする行事が苦手で、基本的に不参加だ。

今回は、俺が少し強引に誘ったもんだから、渋々参加したといったところだろう。

 

なぜ強引に誘ったのか、なんて言わずもがな。

なんといっても週末、もしかすると俺のいない間に、例の受付嬢がクラウドをまた誘い出すかもわからない。

クラウドは少し気まずい思いをするかもしれないけど、それでも目の届くところにおいておきたかった。

 

 

 

 

新年会、といっても――目的は合コン。

独身でフリーな若手だけが集まって、仲良くお喋りしようという…毎年恒例のイベントだ。

去年は、誰かそのへんの女の子をお持ち帰りしたと思うけど、それが誰かは思い出せない。

今年も、秘書課、総務課、それに受付嬢と、かなりのレベルの高さだと思う。

でも、そのレベルを格段にあげているのは――

隅っこで一人、ジンジャーエールを飲んでいるクラウド、だった。

 

普段、一般兵はメット着用を義務づけられているから、クラウドの素顔を知る人間はごく一部だ。

直属の上司か、同じ班の同僚か、寮室がご近所の連中か、それぐらい。

他の人間は、おそらくクラウドの顔を初めて見るのだろう。さっきから、俺の脇腹を肘でつついては

あのすげえ美人、誰?お前が呼んだの?」とか「あの子、秘書課だよな?なんか見たことあるもん。」とか…

かなり情報が混乱しているようだ。

 

一方、女の子サイドも、彼の性別を完全に誤解しているらしく。猛烈にライバル視している。

あの子、どこの課よ?誰が呼んだわけ?」とか、「気取ってんじゃないわよ、女王様気分?」とか…

ひそひそ声で話しているのが、ソルジャーの耳には聞こえてくる。

…女っていうのは、恐い生き物だ。

自分より可愛い生き物には、必要以上に攻撃的で、排他的。

勿論、クラウドを隅っこの席に追いやったのは、女の子たちだ。

当の本人は隅の方が気楽なのか、涼しい顔で気にしていないようだけど。

 

でも、俺がつまんない。

クラウドと話したいしお酌もしてあげたいし焼き鳥ほぐしてあげたいし(乙女か俺は)。

ちょっと酔ったクラウドに寄りかかってもらいたいし、風に当たってくるかって誘って表で二人きりになるのもいい。

しかしそれには、大きな障害が――――

それは、群がるハイエナたち…もとい、肉食系の女子たちだ。

 

 

 

 

「ザックスって、O型でしょ〜?」

「そう、なんでわかんの?」

女の子は血液型の話が好きだ。

合コンで話を盛り上げるにはお決まりのパターンだけど、面白味がない。

今までも違う女の子たちと、何度も何度も繰り返してきた会話だから。

 

「なんか、大雑把なかんじ!自由に生きてるっていうか。」

「おーぴったり。そんじゃ君は、B型かな〜」

ごめん、正直AでもBでもCでもいいから、あんま身を乗り出さないでほしい。

俺の席から、クラウドの顔が見えなくなる。

「当たってるけど。女の子にB っていうの、失礼だよ〜ザックスのばか!」

なんで失礼なんだか、よくわからない。

よくわからないけど、女の子は嬉しそうに笑って、俺の肩を叩いてくる。

 

あんまべたべた触られると、クラウドに誤解されちゃうじゃない。

ほどほどにしてくれ。…とは、言えないけど。

「じゃあさ、ザックスって、どんな子がタイプなの?」

その女の子の質問をきっかけに、周りの連中も話に入ってくる。

 

「こいつは、すっげえ贅沢もんだぜ。ちょっともてるからってさ!」

「なんだっけ?料理ができて、素直で、トコ上手な子がいいんんだっけ?」

「えーあたし、まさにそういうかんじかも。」

「アンタ料理なんか、やったことあんの?それならあたしの方が…」

みんな、好き勝手なことばっか言っている。

確かに、昔、酒を飲んだ席でそんな発言をしたことはあるかもしれない。あんま覚えてないけど。

 

「まあ、そんな感じの子がいいかもな」と。適当に相槌をうったところで、俺の対角線上――

ジンジャーエール2杯目を飲むクラウドと、思い切り目があった。

瞬間、考えなしに言葉が出た。

 

 

 

「…違う。」

 

 

 

「え?」

周りの反応が、一瞬停止する。クラウドも、グラスを握ったまま動かない。

確かに、前はそんな子が理想的だと思っていたかもしれないけど、今は違う。

俺は、クラウドから目が離せないまま――

 

 

「別に、料理なんかできなくてもいい。」

 

 

お粥ひとつ作るのに、鍋を爆発させちゃいそうなぐらい不器用な子が、俺は好きだ。

「…俺が、あいつの好きなもん、何だって作ってやるし。」

生クリームをいっぱい乗せたクレープも、蜂蜜たっぷりのワッフルも。

甘いものだけじゃなくて、ちゃんと緑の野菜も取らせないといけない。

成長期なんだから、肉ももっと食べてくれなきゃ心配だ。

…あの子のためなら、なんだって作ってあげる。

 

 

「それに、素直じゃなくっても、いい。」

 

 

気持ちを、言葉で表現するのが苦手で。

「お高く止まってる」とか「礼儀がなってない」とか誤解されやすいクラウドのことが、放っておけない。

本当は、誰よりも傷つきやすくて優しい子なんだってこと。…俺は知っているから、

「喧嘩したら、絶対俺から謝るから。頭なんか下げないでいいんだ。」

あの日。メールで精一杯の「ごめん」を伝えてくれたクラウド。

…どんなに、勇気がいったことだろう。

もう絶対に、あんな不安な思いはさせない。

クラウドが謝る必要なんかないぐらい、これからは俺がすぐに土下座してみせる。

 

それに―――

 

 

「それに、トコ上手じゃなくっていい。…エッチしたいから、好きなんじゃないし。」

 

 

好きで、好きで、たまらなくて。だから、奪わずにはいられなかったけれど。

あの夜、クラウドを抱きながら――死ぬほど幸せだと思いながら、死ぬほど、怖いと思った。

暴けば暴くほど、クラウドを失う事実に、恐怖した。

セックスしたかったわけじゃない。ただ、馬鹿な俺は、他に術を知らなかった。

 

 

好きだよ、って。伝える術を。

 

 

 

 

「オマエ、それ誰のこと言ってんだよ?」

シン…と静まり返った酒の席で、沈黙をやぶったのは――古い付き合いでソルジャー仲間のカンセルだった。

それをきっかけに、とたん周囲が盛り上がって歓声が上がる。

「ひゅーザックス君!ついに本命ができちゃったのか?」

「どこの美女だよ!ずりーぞ!おまえいつも一人で食ってねえで譲れよ!」

「ちょっと、ザックス!次あたしと付き合ってくれるんじゃなかったの?!」

 

つい、口滑ってしまった自分の過ちに、後悔した。

その相手は誰だ誰だと、質問責めにあってきりがない。

次々に酒を注がれては、それをあおるしかない。

「おい、マジで誰だよ!一夫多妻制を素でいくような、オマエがはまる子ってさあ。」

おい!滅多なこと言うなよ。クラウドだって、聞いてるんだぞ!

「もしかして、受付嬢のマドンナちゃんとか?」

受付嬢――それは、クラウドに想いを寄せるあの子のことか。

あの子より、クラウドの方が断然可愛いに決まっている。

自分より可愛い男と、よく付き合おうとしたものだ、と思うのは…さすがに彼女に失礼だろうか。

 

「受付のマドンナね〜乳でかいし、エロそうだし。いかにも、ザックス好きそうだよなぁ。」

カンセル、その情報はかなり古いぞ。

最新情報によると、俺はぺったんこな胸に(ただしクラウド限定)異常な興奮を感じるらしい。

「…あの巻き髪の?俺、ああいう子パス。」

むしろ、顔も見たくない。

さすがにクラウドとエッチはしてないだろうけど、もしかしたらキスを迫ったかもしれないし、

少なくとも手ぐらい繋いだかもしれない。

…俺って、なんて狭量なんだろう。クラウドの手すら、誰にも取られたくないなんて。

 

「オマエ、今世の中の男を全員敵に回したぞ。」

「その本命ちゃんは、まさかもっと美人なのか?」

よっぽど気になるのか、他に楽しい話題もないのか、わいわいと俺の席の周りに人と酒が集まる。

(美人かって…見ればわかるだろ。そこにいるんだから。)

「…そりゃ、そうだろ、世界で一番可愛いもん。ほっせえしさ、肌も真っ白で透き通っちまいそうだし、

目もチワワかってぐらいでかいし、金髪も柔らかいしさ、こう、グリグリかき混ぜると気持ちいいんだよな…」

「お、こいつ酔ってきたぜ。もっと飲ませよう。」

酒をなみなみに注がれ、またそれをあおる。

 

「胸はないけど、お尻が可愛いし。すっげえよかった…」

あれ?俺、何を喋ってんだろ。ちょっと、さすがにこれ以上は、社外秘だろ。

でも、なんかだんだん何を言ってるんだか、自分でもよくわからない。

「なんだよ、結局トコ上手なんじゃん。」

「ちっげーよ!あいつ、絶対俺が初めてだもん。痛がって、可哀想だったけど…泣き顔もやばいそそるっつーか、」

「泣いてる子を、無理矢理ヤっちゃったのか?!ざっくん鬼畜〜!!」

 

きちく?俺って、きちくなのか。きちくって、何だっけ、どう書くんだっけ。

「……きちく、かもしれないけど。でも、好きなんだ。」

「おい、ザックス。さすがに、飲み過ぎだぞ。」

カンセルの声が遠くで聞こえた気がするけど、抑えきれなくなって。

俺は、グラスをテーブルに叩きつけて叫んだ。

 

「好きで好きで好きで、死にそうだったんだ!だから我慢できなかったんだ!そうだよ、俺は最低のレイプ魔だよ!

家畜だよ!(←誤字)下手くそで自分勝手で変態で、あいつのこと泣かしちゃったよ!俺は…」

 

「おい、落ち着けって。みんな引いてんぞ。

「カンセル〜!俺は、あいつに嫌われちゃったのか…?!俺、どうしたらいいんだ?!」

とりあえず、黙ればいい。

泣きながらカンセルに縋り付くと、よしよし、とごつい手で撫でられた。

違う、俺が撫でてほしいのはひんやり冷たいクラウドの手であって…

 

「ほら、水だ。ちょっとは頭を冷やせ。」

カンセルに押し付けられたグラスを一気に飲み干すと、大きく息を吐いた。

ちょっと、酔いが醒めた気がする。

カンセルが「ほらほら散った散った!」と外野を追い払ってくれて、できた友人に感謝した。

「…スマン。」

「いいけど。お前の言ってる、可愛い子ちゃんてさぁ……もしかして、酒苦手だったりすんの?」

 

「…え?!」

その言葉にぎくりとして、慌てて壁の方に視線をやった。

クラウドが、参加してたこと―――すっかり頭から抜け落ちていた。

俺はクラウドの前で、何か猛烈にかっこ悪いことを叫んだ気がするんだけど。

だけど、それを恥じる前に。視線の先の光景に――俺は、勢いよく立ちあがった。

俺の対角線上のクラウドが。

酒が弱いからって、俺と二人きりのときしかアルコールを遠慮して飲まない彼のグラスに、酒が注がれていたから。

 

ソルジャーの俺の同僚3人に囲まれて、断れないのかちびちびとグラスに口をつけるクラウド。

2、3口飲んだだけで、頬がバラ色に染まって可愛さ200倍だ。

「え?きみ、ザックスのルームメイトなの?」とか「お、男だったのか…俺転んじゃいそう」とか

好き勝手なことを抜かす男ども。…ふてえ野郎だ!

 

「おい、ザックス?!」

「そこどけ!クラウドは、俺と飲むんだよ!」

もう幹事なんてやってる場合ではない。

無理やり、クラウドの隣に腰をおろすと、周りからヤジが飛ぶ。

「おい、酔っ払い!後輩にまで絡んでんじゃねえよ!この子びびってんぞ?」

「おまえは、むこうで女の子はべらかしてろ!それかカンセルに泣きついてろ!」

 

「クラウドと飲むってんなら、俺を斬ってからだ!」

「はあ?」

勝負だこのやろう!抜刀しやがれ!

「いや、そんな割り箸ふりまわされても…こいつ完全に出来上がってんな。」

 

俺のことを酔っ払い、と言ってしっしと追い払おうとするやつら。

「クラウドはさ、どんな男…いや、どんな女の子がタイプ?」

「その金髪って、本物?すげえな〜今までなんで気付かなかったんだろ。」

「へ〜甘いものが好きなんだ。お〜い、誰かクラウドにデザート持ってきてよ!」

あろうことか、クラウドの髪に触れたり、デザート頼んで興味をひこうとしたり、

誰もが聞きたいであろう好みのタイプを聞き出そうとしたり…

 

クラウドが、男にもてまくっている。

そして俺は、その輪に入れてもらえない。

こっちを見てほしいのに、クラウドは勧められたメニュー表を見ている。

 

クラウドに甘味を持ってきたカンセルが(俺が幹事を放棄したから、代わりにやってくれてるんだろう)

俺にだけ聞こえるよう耳打ちした。

「去年のオマエみたいに、悪乗りする奴もいるから。気をつけろよ。」

「えっ」

去年――そういえば、新年会の後、酒の勢いで悪乗りして。

何人かの男女で、いわゆる、アレだ。『乱交』めいたことをしたような記憶が…

こいつらも、一緒にヤったんだろ?

 

そうだったかもしれない。

記憶がもう曖昧だけれど、ソルジャー仲間何人かと「おふざけ」をしたのは覚えてる。

女の子たちも、かなりノリノリだったし。

もし、今年もそんなのをやるつもりだとしたら…

(クラウドが、危ない。)

酒を飲ませて、酔いつぶれたこいつを皆でまわすなんてことになったら―――

(ふざっけんな!!!)

「クラウド、」

 

 

 

「クラウド、俺…っ」

クラウドを、こいつらに渡さない方法ぐらい、本当は知っている。

卑怯かもしれないけど、今使わないで、いつ使うんだ。

「ザックス…?どうしたの?」

ずっと目を合わせてくれなかったクラウドが、ようやく振り向いてくれた。

 

 

 

 

「俺、飲み過ぎて、気持ち悪い。………部屋まで、送って。」

 

 

 

優しいクラウドが、この手段に弱いこと。俺は知っている。

卑怯だと罵ればいい。

「てめー、ひとりで帰れよ!」

「後輩ちゃん巻き込むな!」

罵れ罵れ。泣け喚け。でもクラウドは、絶対にこう言う―――

 

 

 

 

「わかった。一緒に、帰ろ?」

 

 

 

 

そう言って、背中をさすってくれるクラウドの手――

その優しい手の力に、罪悪感をチクリと感じて。

思わず泣きそうになって目頭を押さえると、カンセルが笑った。

「大丈夫、オマエかなりの重病だ。しっかりその子に看てもらえ。

 

 

 

仮病は、この世でいちばん重い病気だよ。

…って、どっかの名医が言ってたからな。                       byカンセル

 

 

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C-brandMOCOCO (2011126初出

結局、何でもお見通しのカンセル君。

 

 

 

 


 

 

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