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*ご注意*

@「それは、死に至る病。」その後のお話です。

Aザックスが、相変わらずクラウド大好き病発熱中!です。頭悪いです。

 

  

―番外編2

その恋は、感染するので

マスクしてください。

 

 

飲み屋を後にして。クラウドと二人、ネオンの下をゆっくりと歩く。

冷たい風が頬をうって、すぐに酔いは醒めてきた。

 

手を繋いでみようかと思って、でもポケットの中で拳を握りしめたまま。

どうしても、それを差し出すことができない。

(あ、俺。初めて、なんだ。)

そういえば、これまでたくさんの子と付き合ってきたはずなのに。

俺は女の子と、『手を繋いだこと』が一度もなかった。

肩を抱いたことは、あったかもしれない。腕を組まれたことも、あっただろう。

だけどそれは、いわゆる「デート」の雰囲気を盛り上げるためのパフォーマンスであって、

「そうしたいから」したというわけではない。

肩を抱きたかったのではなく、腕を組みたかったわけでもない。

はっきり言えば――そう、その後にただ、ホテルに連れ込みたかっただけだ。

 

(手、繋ぎたい…)

 

俺のポケットの中では、忍ばせたカイロが温まっている。

季節は1月。今にも雪が降り出しそうなほど、寒い冬の夜だ。

ただでさえ、冷たいクラウドの手は、きっと今は氷のように冷たくなっているはず。

何の意図もなく、見返りもなく――

ただ、自分の手で包んで、温めてあげたい、なんて。

…こんな気持ち、この子と出逢うまで絶対に知らなかったことだ。

 

だけど、もし俺が手をとったら。クラウドは、いったいどんな反応をするんだろう。

すぐに、俺の手を振り払うかもしれない。

「男同士で何考えてんだ」と睨まれるかもしれないし、「酔っ払い」って一笑して終わるかもしれないし、

ただ、「触るな」と――そう一言、拒絶されるかもしれない。

(俺、怖いのか?)

どのシミュレーション結果が当たったとしても、それらはあまりに虚しいものばかりだ。

だから、たった5センチ程度の距離なのに、手をのばせない。

たった5センチ、この5センチを乗り越える勇気さえないなんて。

 

(こんなのって、俺らしくない。)

 

「俺らしい」って、何だろう。

それは、これまでそうしてきたように――女の子を相手にしてきたように。

失うこと、嫌われること、そういうことを少しも恐れないことなのか。

軽口で愛を語りながら、肩に手を回して、耳に唇を寄せて。

そして「休憩していかないか」と、そうストレートに誘う。

それで手に入らないことなんか、今までなかったんだから、クラウドだって。

…クラウドだって、俺を選んでくれるのか?

 

手が、震える。

 

肩に手を回そうと決めたその右手は、まるで自分の手じゃないみたいに。

ポケットの中で、震えが止まらない。

(…情けない。)

武器を振り回すことだって、人を傷つけることだって、少しのためらいもなく動いていたはずの右手が

たった一人の子に、触れることさえできないなんて。

こんなの、俺らしくない。

俺らしく、俺らしく…もっと、俺らしく。 俺らしく?

(…俺らしいって、なに?)

 

大好きな子を、大事にしたい。

大好きな子に、嫌われたくない。

 

いっそ馬鹿みたいに臆病な、今の俺の方が。 むしろ―――

 

 

 

 


 

「ザックス?」

覗き込んでくるクラウドの視線、その至近距離に、心臓が爆発しそうになる。

つい目を泳がせたその先に、俺のシャツを遠慮がちに掴む小さな指――

それが視界に映った瞬間、もう何も考えられなくて。

「…クラッ!」

ほとんど無意識に、クラウドの小さな体を思い切り抱き寄せた。

 

「うわっ、ザックス、」

「クラウド。」

 

クラウドの細い肩を、抱き寄せてしまった。

(おおおおお落ち着け、俺!)

肩を抱けば、余計に華奢だとわかる。それに、髪の毛からめちゃめちゃいい匂いする。

クラウドほど可愛い男が、この世に生息しているわけがないのは当たり前だけど、女の子だっているわけない。

女の子の香水とかシャンプ―の匂いよりも、クラウドを纏う香りは、柔らかくて、澄んでいて、甘くて…

(って匂いかいでる場合じゃねえ!

ここは、クラウドをドキリとさせるような低い声で、囁くように。

 

「なあ、クラ…休憩してかねえ?」

 

 

 

…言った後で、俺自身が困惑していた。

クラウドをホテルに誘って、俺はいったい、どうするつもりなんだろう。

体だけが、欲しいわけじゃない。

心が欲しいだけだから、体はいらない、なんて。

そう言えるほど紳士にはなれないけど、だけどクラウドのためならば何年だって、何十年だって待ってあげたいと思う。

 

…焦って、目的を完全に見失っていたかもしれない。

今必要なのは、体を重ねる場所じゃなくて、二人きりで話す時間だ。

ホテルじゃなくたって、公園でもいいし、バーで飲み直してもいいし、部屋に戻ってもいい。

「…うん、いいよ。」

ほらな、クラウドもひいてるし、ここはフォローして部屋にもど…

 

 

え?

え?

えっ?!

 

 

「いいいいいいって、クラウドさん、」

「ごめんね、もっと早く言ってくれればよかったのに。」

「いや、俺はしたいけどしたくないというか、いやしたいかと言われれば死ぬほどしたいけど

まだ早いというか、用意もしてないといいますか、」

「休憩、したいんだろ?」

「あんなことの後だし、もうちょっと、話し合いが必要ではないでしょうか俺たち、」

「ねえ、もっと寄りかかって。」

「こ、こんなにくっついたら、さすがにまずいだろ…!俺は嬉しいけど、変な気分になってくるといいますか、」

 

 

――もう、だめだ。この子は、可愛い。

男であるならば、欲しくないわけがない!

 

 

「クラウド!俺…ッ!」

「気分、悪いんだろ?我慢しないで、吐いてもいいよ?」

へ?

「はやく、横になれるとこ、入ろ。」

 

…そうでした。

そうだったのでした。

――――クラウドは、天使だったのでした。

 

 

 


 

「あ、なるほど…そーいうことか。」

なんて、危険な生き物。

「ザックス?」

天然通り越して、兵器といってもいい。男の下半身的には、それほど危険だろう。

「…あのな、クラウド。男をホテルに誘うってことが、どういうことかわかってんのか?」

「は…?」

 

「オマエみたいな可愛い子は、あっという間に食われちまうんだぞ!嫌だ嫌だってお前がどんなに泣いたって、

男からすりゃお前の泣き顔もやばいんだよ!こないだだって、イヤイヤ言われるの、すっげー燃えたし…」

しまった。まだ酒が抜け切っていなかったのか――

口からは、バカ正直な性癖つるつる滑ってしまった。

「なんだよ、それ…」

クラウドが、涙目になる。そしてすぐに、眉間にしわを寄せて俺を目で責める。

彼が怒るのも、当たり前だ。

こないだ無理やり食ってしまったのは、他でもない俺であって、その会話はクラウドにとってタブーだったはずなのに。

自分自身のデリカシーのなさに、頭が痛い。

「ザックスのばか…、」

「いや、ごめん、俺。あの時のことも、本当に悪かったと思ってる。」

「そんなこと、言ってるんじゃない。」

クラウドのチワワみたいに大きな瞳から、ポロリと涙が零れて。

それが地面に落ちていくのをもったいないなく思って、無意識に目で追っていた。

 

 

 

「俺が、誘ったら悪いの?」

 

 

 

(え?)

「もう、知らない。勝手にのたれ死ね!」

そう言って、必死で悪態をつくクラウドは。…怒っているというよりも、ひどく傷ついているように見えた。

「彼女にでも、介抱してもらえば?俺は別に、ザックスに選ばれたとか、思ってるわけじゃないし…」

もしかして、俺は。クラウドに恥をかかせてしまったのだろうか。

もしかして、俺が思うよりクラウドは俺のことを、

「別に、別に何番目だっていい――」

見当違いの言葉を紡ぐその唇を、思い切り奪った。

勢いがつきすぎて、互いの歯が当たる。

 

 

「……痛い。ヘタクソ。」

 

 

色気のないないクラウドの言葉に、少し安心して笑う。

「初めては、痛いっていうだろ?俺だってここ、切れてすっげー痛いんだぞ。」

クラウドの歯が当たって、俺の唇の皮が少し切れてしまった。

「けーけんほーふ、じゃないのかよ。」

優しくない言葉を口にしながら、やっぱり優しいクラウドは、俺の切れた唇にそっと指で触れる。

「初めてだよ。」

たぶん、初めてだ。いや、絶対に初めてだった。

 

 

 

「好きな子と、キスしたの。オマエが初めて。」

 

 

 

本当に誰かを好きになったのも、好きな子を抱いたのも、好きな子とキスをしたのも。

こんな風に、想いを伝えることも。それだけじゃない。

「手、繋ぎたいって。言えないのも、初めて。」

「…何それ。かっこ悪いの。」

クラウドの言葉どおり、俺はあまりにかっこ悪い。

 

だって、クラウドのひんやり冷たい手が、俺のポケットの中にそっと入ってきて。

指の先を遠慮がちに握られただけで、目頭が熱くなって、泣いてしまいそうだった。

「かっこ悪い、けど…」

かっこ悪い、かっこ悪いって。何度も言うなよ。

情けなくて、なんか鼻水までたれてくるじゃんか。

 

 

 

「そういうの、ザックスらしいね。」

 

 

 

かっこ悪くて、情けないほどに、この子しか見えない。

それがきっと、クラウドの言うとおり、「俺らしい」ってことなんだろう。

そういう自分も、悪くないと思う。

だって、クラウドが悪くないって顔をするから。

 

 

「ザックスは、俺のこと…き、らいじゃないの?」

どうしてそこで、「好きなの?」って聞かないんだろう。

いっそ潔いぐらいに、クラウドらしい。そういうところが、可愛くてしょうがない。

 

「大好きだよ。」

 

飾りつける必要はないし、駆け引きも必要ない。

ただ、ありのままの気持ちを伝えればいい。

それが、クラウドの一番聞きたい答えなんだ。

そう信じて、前に進む。

 

「どこがいいの。俺なんか…」

「俺の大事な子のこと、なんかって言うな。

 

少しだけ強い口調で言うと、クラウドがびくりと肩を揺らす。

その細すぎる肩をそっと撫でながら、優しい仕返しを思いついた。

ちょっと、意地悪かもしれないけれど。

「じゃあさ。クラウドは、俺なんかの、どこが好きなの?」

負けず嫌いのクラウドは、やっぱり悔しそうな顔をして、

 

 

「俺の大事な人のこと、なんかって言うな。…ばかザックス。」

 

 

可愛くない愛の告白に――眩暈グラグラ、心臓ドキドキ。

幸せすぎて、立っていられない。

 

 

 

 

どうして、こんなに好きなんだろう?

 

それはきっと、

僕が僕であったから。

君が君であったから。

 

 

 

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C-brandMOCOCO (201152

やばい電波。

 

 

 

 


 

 

 

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